湯道百選

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鳥取・東伯郡

木屋旅館

KIYA RYOKAN

湯は、六感を回復させる。


湯に浸かり、三たび朝を迎えれば元気になる……それが三朝みささ温泉の由来である。この湯は高濃度のラドンを含む世界屈指の放射能泉。ラドンとはラジウムが分解されて生じる微量の放射線のことで、これにより細胞が刺激され、新陳代謝が促進されたり、免疫力や自然治癒力が高まるといわれている。しかもラドンは気化して空気中にも含まれているため、三朝の町を歩くだけでも健康につながるらしい。


三朝温泉の魅力は、そうした医学的な理由だけにとどまらない。山岳信仰の聖地・三徳山みとくさんへの参拝と温泉への入浴によって心と身体を清める……これが一連の作法として三朝に根付いているのだ。三徳山が修験道の行場として開かれたのは706年といわれている。その山麓に「三佛寺さんぶつじ」が、そして山頂に近い断崖絶壁の窪みには奥院の「投入堂なげいれどう」が建てられた。


江戸から続く「木屋旅館」の風呂で身を清め、投入堂を目指す。 足を踏み外せば命を落としかねない壮絶な山道の連続。「日本一危険な国宝」という異名に納得である。息を切らしながらたどり着き、投入堂に手を合わせると、心の中が洗われていくのが分かった。そして下山し、再び木屋旅館の湯に浸かって疲れを癒やす。こうした三朝の流儀は、「観・聴・香・味・触・心」という六感を治癒する効果があり、日本遺産第一号にも認定された。

厳しい自然の中を歩いて、いい湯に浸かり、旨いものを食う。安息の地を見つけた感動は、いまも続いている。

木屋旅館の湯を守る、御舩利洋さん。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto

木屋旅館

  • 〒682-0123 鳥取県東伯郡三朝町三朝895
  • TEL : 0858-43-0521
  • URL : https://www.misasa.co.jp/
  • <宿泊>
    ¥18,700~
    (1 泊 2 食付き、1 室 2 名利用料金)

鳥取空港からクルマで約40分。明治元年から続く老舗旅館。ラジウム温泉を生かした宿づくりを行っている。明治時代から増築を重ねた建物は、全館が登録有形文化財に認定されている。館内には、56~80°Cの源泉が点在。飲んでも、その蒸気を吸っても効能があるという 。