湯道百選

湯の記をはじめるにあたり…

茶が道になったように、日本特有の入浴文化も道になるかもしれないと直感し、それを湯道と名付けた。自分が生きているあいだにそれが結実するとは思っていない。遠い未来の記憶に「湯道」が刻まれたならそれでいい。自分の人生の足跡がその一助になるのなら本望だ。

湯道を世に問い始めてから2年が過ぎた。まずは作法らしきものを作ってみたものの、「湯道は作法にあらず、湯に向かう姿勢なり」という結論を得た。形ではなく心。湯に浸かり何を思い、何を得るかが、大切なのだ。形はいずれ自然と生まれてくるに違いない。とするなら、湯道の本質にたどり着くには、この国に存在するいい湯に浸かり、そこで閃いた文言を積み重ねてゆくことが一番の近道だと思った。
日本にはたくさんの素晴らしい温泉が存在する。江戸から続く銭湯という文化も守らねばならない。そして各家々にも他の国にはない特有の機能を備えた心地良い風呂が設えられている。あらゆる湯に浸かり、思惑を巡らせることで湯道が何たるかを私は知ることになるであろう。

 

平成30年
小山薫堂

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