鶴への恩返し

3代目の小池典洋さんが、旅館を「鶴の恩返し よみがえりの宿 鶴霊泉」としてリニューアルしたのは2015年のこと。「“恩返し”という一つの想いのためにお客様をおもてなしする」というテーマを掲げての刷新だった。
「私がストーリー性のある宿を作りたいと考えていたんです。江戸時代、怪我をした鶴が岩場に足を出していたらその傷が癒えて飛べた。そこで岩場を掘り起こしたら温かい泉が流れていた……というストーリーから鶴霊泉の名前が生まれたと言われています。鶴は縁起物であり、うちの温泉を発見してくれた。そのストーリーを人に広めていくことが鶴への恩返しにもなる、という思いでやってきました」

コロナ禍の休業をきっかけに、家族や恋人など大切な人に恩返しをしてもらう「鶴の恩返しプラン」を立ち上げるなど、従業員一同で旅館としての新しい姿を形作ってきた。通年で夕食にしゃぶしゃぶや石焼などの鍋料理が出るのも、持ち味の一つ。ここには小池さんならではの思いがあった。
「鍋をやっている時がいちばん幸せな気持ちになりませんか。鍋は夏場もやっているんですよ。夏まで鍋をしなくていいのにな……と感じる人もいると思いますが、うちの旅館は誰かを祝うためにとか、久しぶりの人と会うというお客さんが多い。そうすると鍋がいいな、と。楽しい空気を演出するための鍋なんです」
楽しみながら、記憶に残る時間を過ごしてほしい。そんな思いが旅館のすみずみにまで行き届いている。

鶴霊泉をはじめ、歴史ある温泉街として栄えてきた古湯温泉。最近はこんな変化も生まれているそうだ。
「今、旅館同士の交流がいちばんあると思います。昔は『隣の旅館に負けたくない』と喧嘩腰だったこともあったのですが、今は助け合わないと上手くいかないんですよね。それぞれの宿屋が『子どもの受け入れはそちらでしてくれないか?』とか『女性限定の宿はここにしようとか』とか、タッグを組んで振り分けができれば、古湯は最高の温泉街になると思うんです」
たくさんの人と力や知恵を合わせ、古湯温泉を盛り上げるのが小池さんの今の夢だという。鶴霊泉から流れる熱い思いが、温泉街全体を生き生きとさせていく。温泉街の理想的な姿の一つがここにあった。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
鶴の恩返し よみがえりの宿 鶴霊泉
- 〒840-0501 佐賀県佐賀市富士町古湯875
- TEL : 0952-58-2021
- URL : https://kakureisen.com/
- 営業時間:11時〜14時最終入館(日帰り入浴)
料金:一般 ¥1,000、子ども ¥500