湯道百選

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大分・佐伯

塩湯

SHIOYU

湯は、
母なる海を身体に招く。


地球には推定14億k㎥の水が存在している。その2.5%が淡水だが大半は極地の氷のため、人類が使用できる水は0.01%に過ぎない。我々日本人はそれほど貴重な水を毎日沸かし、それに浸かっているのである。なんと贅沢な行為だろう。しかし冷静に考えるなら、地球に存在する水の97.5%を占める海水・・・これを入浴のために使わない手はない。実際、汲み上げた海水を沸かして利用している公衆浴場は全国に数軒存在する。
 そのひとつが、大分県佐伯市の「塩湯」である。海沿いにあるこの公衆浴場には、新鮮な海の幸が味わえる食堂が併設されており、毎日、多くの客が訪れている。創業は19年前。風呂好きの漁師・坂本政治さんの「海水の湯に浸かりたい」というふとした思い付きからすべてが始まった。妻の恵美さんに背中を押され、ヒラメの養殖場跡地で計画をスタート。妻とふたりでDIYのような工事を行い、10ケ月を費やして木造平屋の浴場を完成させた。


手づくりの木造建築は、どこか人間味があって入浴する者を和ませる。銭湯の素朴さと、温泉の効能を共存させた極上の湯。小窓から吹き込む海風を頬に受けながら、ミネラルたっぷりの湯に浸かると身体の毒素が抜けていくのが分かる。海水の湯を舐めると、もちろんしょっぱいが、風呂上がりにベタベタすることはない。

 地球上の生命は、母なる海によって育まれてきた。海水の塩分濃度は、羊水のそれに近いと言われている。とするならこの湯は、生きる力を充電する場所なのかもしれない。



Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

塩湯

大分市内からクルマで南下すること1時間。豊後水道に面した漁師町に塩湯はある。透明度の高い海水をくみ上げ沸かした風呂で、塩分が汗の蒸発を防ぐので保温効果が高く、湯冷めしにくい。檜風呂のほか石風呂もあり、打ち湯・露天風呂・サウナも用意。併設の食事処で、地魚を豪快に使う海鮮丼が味わえるのも醍醐味のひとつ。