湯道百選

36.5
石川・金沢

KAI-TOU

KAITOU

粋人が集う”極上の場”。


石川県金沢市東山の「ひがし茶屋街」にある町家。一見、周囲の景観にも溶け込んでいるふつうの建物だが、中は住居ではなく吹き抜けの空間が広がる。ここ、「KAI」は新しい文脈の「ものづくり」を志す職人やつくり手が集い、その時その時の“極上の場”を仕立てるものづくりの実験の場だ。取材時に展示されていたのは組立式の二階建て茶室「KAI-RO(回炉)」や、組立式湯舟「KAI-TOU(回湯)」で、この日は湯道・家元の小山薫堂のために“湯開き”が行われた。


一階が食事と風呂を楽しめる場、二階が茶室になっている組み立て式の空間。
茶室の壁はカスタマイズできるので、自分好みの空間に仕立てることができる。

KAIを手がけるのは構匠・三浦史朗氏。2019年6月から現在まで信頼のおける職人と共に5つの作品を生み出し、KAIで披露してきた。たとえば組立式湯舟「KAI-TOU」を依頼したのは中川木工芸比良工房の木工芸作家 中川周士氏。
「中川さんに組み立て式の湯舟のお題を出したところ、得意の木の桶ではなく、木の船を作る技術ならできるかもしれない、と。1年越しの完成になりました。中川さんは伝統的なことと新しいことが両立している職人です。僕がKAIで一緒に仕事をするのは、そういう感性を持った人たちです」

 湯舟のみに収まらず、より入浴を楽しめる風呂道具の一式も中川氏は作り上げた。それは、小山が京都の骨董屋で手に入れた中川さんの祖父にあたる木工職人・中川亀一氏の「御風呂用揃い」に習ったもの。小山さんは亀一氏の作品とは知らずに購入し、周士氏も実物を見た時はとても驚いたという。数十年の時を経てつくり手同士が繋がり、新しいものが生まれてゆく場でもあるのだ。

左が中川亀一氏の作品。右がそれに習い、中川周士氏が今回新たに制作した「御風呂用揃い」。ときを超えて、祖父と孫の共演が果たされた。

三浦氏は、つくり手の想いのこもった空間や室礼で使い手と親密に語り合う場をつくりたい、という想いからKAIを立ち上げた。展示物はいずれも組立式のため、別の場所での展示も自由自在、購入ももちろん可能だ。

「普通のギャラリーは見て終わりですよね。良い素材や技術を持った人の作品は、パッと見て『良い』と思うものとは少し違う。実際に道具を使ってじわじわと良さを感じて、本当に自分の手元に置いておきたいと思った方に、お渡しをしたいんです。一緒に場を楽しむことで、またそこから面白いものが生まれるきっかけにもなるかもしれません。まず、楽しむということから始めたいんです」

 KAIの新作は高知の竹細工職人・下本一歩氏が手掛けた「KAI-CHIKU」、孟宗竹で作られた茶道具一式だ(2020年6月現在、KAIは予約制で見学が可能)。今後は金沢の職人ともものづくりをしていきたいと三浦氏は語っていた。伝統文化が息づく金沢からどんな新しいものが生まれるのか、注目していきたい。

中央が三浦史朗氏、その左隣が木工芸作家の中川周士氏。


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton and official photo

KAI-TOU

  • 〒920-0831 石川県金沢市東山2丁目8-25
  • URL : https://kai36.jp/story5/
  • 時間:10:00〜17:00
    定休日:火曜
    ※予約制、展示のみで入浴は不可。

金沢駅からクルマで約10分、伝統的建造物群保存地区のなかにある一軒の町家。古き良きものと新しいアイデアが入り交じる唯一無二の空間は、建築家三浦史朗氏の自由な発想から生み出された。「KAI」では2ヶ月毎に展示替えがあるため、展示内容の確認・予約は、訪れる前に必ずHPを確認のこと。「KAI-TOU」の展示は、現在は終了している。