街の玄関口としての銭湯。
創業86年を迎える東京・高円寺の銭湯「小杉湯」。
一見すると、古き良き街の銭湯という雰囲気だが、その取り組みはどこよりも先進的で個性的。仕掛け人は、店主の平松佑介さん。住宅メーカーの営業、ベンチャー企業の創業メンバーとして経験を積んだのち、小杉湯を継いだ三代目だ。そして、番頭でありイラストレーターでもある塩谷歩波さん。大学院を卒業後、設計事務所に勤務したのち、小杉湯に転職した。銭湯の魅力をイラストで表現した著書『銭湯図解』も話題を呼んでいる。
銭湯を愛する若いふたりならではのアイデアで、小杉湯には他にはない新しさ、楽しさが溢れている。その空間づくりのイメージは、“キュレーションメディアのリアル版”だという。
「たとえば、澱が入ってしまった日本酒や酒粕を使った日本酒風呂や、売り物にはならないみかんを使ったみかん風呂など…“もったいない風呂”として、いろいろな業種とのコラボレーションもしています」
取材で訪れた際の日替わりは、山形の日本酒「楯野川」のお湯だった。
お風呂以外にも、愛媛県今治市のタオルメーカー「IKEUCHI ORGANIC」とコラボをしてバスタオルの貸し出しもしている。過去には、バスマットや暖簾がタオル地に変わったり、愛媛産の「河内晩柑」風呂をつくったりした「IKEUCHIの湯」という企画も開催した。
「お金ではなく、会社のストーリーを伺い、それを応援するかたちでのコラボレーションをしています。小杉湯という場所が、企業や人の発信の場になれば嬉しいです」
2003年のリニューアルの際には待合スペースをギャラリーに作り替えていて、予約が数年先まで埋まるほどの人気ぶり。最近ではギターのライブやダンスイベントも催すなど、人やものと出会える場として進化を続けている。
各家庭にひとつずつ、湯船がある時代。その中で「銭湯はなくてもいいけど、来たら豊かになる。銭湯のある暮らしをつくっていきたい」と平松さんは言う。
「銭湯が街の玄関口になって、街の人にも、訪れる人にとっても交流の場になるのが理想です。小杉湯でお風呂に入って、そのあとは高円寺のお店に立ち寄る。銭湯を軸にして、街全体がもっと盛り上がる仕組みをつくっていければと思います」
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
小杉湯
- 〒166-0002 東京都杉並区高円寺北3丁目32-2
- TEL : 03-3337-6198
- URL : http://www13.plala.or.jp/Kosugiyu/
- 営業時間:15:30-25:45(日曜は朝8時より営業)
定休日:木曜日
入浴料金 大人460円、中人180円(小学生)、小人80円(幼児)