湯は、厳しい自然を
感動に変える。
温泉は季節という衣を纏うことで、さまざまな表情を見せる。北海道の大雪山国立公園に属する十勝岳温泉の「湯元 凌雲閣」は、紅葉から雪山へと衣替えを終え、自分好みの湯となった。まずなにより景色が素晴らしい。天空にせり出すようにつくられた絶景の露天風呂。茶褐色の硫酸塩温泉と純白の雪山のコントラストは、いつまでも浸かって眺めていたいと思うほどに美しい。頬を撫でる山からの冷たい風と、長湯に適した絶妙の温度。標高1280mの崖っぷちに、このような風呂を設えてくれた先人たちに心から感謝したくなる。
すべての始まりは 1959(昭和34)年、十勝岳の地図を作成していた會田久左エ門が、旧噴火口で温泉を発見したことだ。「もしここに温泉があれば、登山者たちはどんなにうれしいだろう」と想像し、翌年すぐに温泉宿の建設に着手。しかし、道なき道を人と馬だけで資材を運ぶことは容易ではなかった。そこに支援者が現れる。富良野に駐屯していた自衛隊員たちだった。宿の主人が三代目になったいまも、自衛隊割引が存在しているのはそのためだ。
山の男たちに愛されたことで誕生した「雲を凌ぐ宿」は、山に登る人々によって磨かれてきた。富良野の中心地からクルマを走らせればここにたどり着くが、できれば過酷な山歩きをした後に立ち寄りたい。山道の険しさを知るほどに、ここがどれだけ奇跡の湯であるかを実感できるから。
湯は、厳しい自然を感動に変えるのである。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
十勝岳温泉 湯元 凌雲閣
- 〒071-0500 北海道空知郡上富良野町十勝岳温泉
- TEL : 0167-39-4111
- URL : https://www.ryounkaku.jp/
- 料金:(宿泊)¥10,000〜(1泊2食付き)
料金(日帰り入浴): 一般 ¥800
時間(日帰り入浴):8:00 - 20:00
旭川空港よりクルマで60分。温泉宿としては道内で最も高い標高に位置する。露天風呂からは、噴煙を上げる「安政火口」を眺めることもできる。湯は、皮膚に膜ができたようなしっとり肌になる「美人の湯」。