湯道百選

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群馬・中之条

尻焼温泉

SHIRIYAKI-ONSEN

湯は、自然からの
   おくりものである。


はるか遠い昔、人は世界を6つに分けたという。東と西と北と南、そして天と地。この6つを合わせて「六合」(くに)と呼んだ。かつて日本には「六合」という名の村が各地に点在していた。その多くは「ろくごう」と呼ばれていたが、今なお「くに」という呼び名で存在しているのが群馬県の六合地区だ。まさにこの国の原風景が残る「くに」を流れる長笹沢川。その途中に、川底から温泉が湧き出している場所がある。30m四方に広がる天然の大露天風呂「尻焼温泉」である。


一年365日入浴できる無料の公共温泉。管理人は常駐しておらず、脱衣所もない。トタン屋根のついた小さな半露天の浴槽が川沿いにポツンとあるだけ。もしそれがなければ、ここが温泉だとは誰も思わないだろう。
 脱いだ服を岩の上に置き、苔のついた石に足を滑らせぬよう気をつけながら川の中に入る。今までに体験したことのない野趣あふれる風呂だ。およそ55℃で湧き出す源泉に、上流からの川の水が混じり、絶妙の湯加減になっている。身体を沈めた瞬間、いつまでも浸かっていたいと思った。流れる湯が身体にあたるのも、また心地良い。これぞ自然からのおくりものである。

 春には麗かな風が吹き、夏には緑が目に眩しく、秋は美しい紅葉に彩られ、冬になると最高の雪見風呂となる。これほど贅沢な湯はない。ただし大雨や融雪によって増水した時は入浴できない・・・湯を媒介にして自然と同化するような感覚だ。
 たしかに湯に浸かっているあいだ、自分は六合に包まれていた。

トタン屋根のついた小さな半露天風呂。地元の方々の憩いの場になっている。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

尻焼温泉

群馬県中之条町を流れる長笹沢川の一部に設けられた、大自然の露天風呂。川底から湯が沸き出して尻が焼かれる様な感じから「尻焼温泉」と名が付いた、と言われている。源泉が川底に数カ所あり、それをせき止め入浴場としている。泉質は塩化物泉、硫酸塩泉。「傷の湯」や「中風の湯」と言われ、高血圧症や動脈硬化症、打身や切り傷、火傷、痔疾、捻挫にも良い。