湯道百選

41.5
群馬・中之条

尻焼温泉

SHIRIYAKI-ONSEN

大自然の懐に抱かれた
秘湯。


群馬県中之条町の六合くに地区を流れる長笹沢川。川底から湧き出る源泉を数カ所せき止め、入浴場にしているのが「尻焼温泉」だ。戦に敗れ、逃亡中の平家の落人が発見したという伝承が残されるほど、山深い場所にある。「尻焼」というインパクトのある名前は、浸かるとお尻が熱くなることから付けられた説と、かつては温まった石で痔の治療をしていたという説の、2つの由来があるという。

「尻焼温泉」に降りていくための入り口。だれでも無料で利用できる。

夏は緑の中で開放感に浸りながら、そして冬は寒さの中で雪景色を楽しめるなど、温泉の原始的な喜びにふれることができる。しかし、一見温泉とはわからないので、入浴客は裸で川を泳いでいるようにも見えるかもしれない。水着の着用が許されるのは女性のみ。脱衣所もないため、気軽に立ち寄れる雰囲気ではないものの、足を運ぶ温泉好きが後を絶たない。


もちろん、地元の人々からも愛されている。尻焼温泉のすぐ近くに暮らす90歳の小泉とよさんは、昔は夫婦でよく尻焼温泉を訪れた。
「今はそうしている人は見かけないけど、夜はお盆をもってきて、そこにお酒をのせて、飲みながら入っている人もいたよ。星や月も綺麗だからね」。川へと続く階段の付近を草むしりして綺麗にすることが、現在の日課のひとつ。いつも、愛犬のカイが見守ってくれているという。

 唯一無二の、野趣あふれる尻焼温泉。我こそは、という人はぜひ山深くへ挑んでみてほしい。


Text by Chako Kato
Photographs by Koyuki Ueda

尻焼温泉

群馬県中之条町を流れる長笹沢川の一部に設けられた、大自然の露天風呂。泉質は塩化物泉、硫酸塩泉。「傷の湯」や「中風の湯」と言われ、高血圧症や動脈硬化症、打身や切り傷、火傷、痔疾、捻挫にも良い。