湯道百選

25
京都・鷹峯

東急ハーヴェストクラブ
京都鷹峯&VIALA

TOKYU HARVEST CLUB KYOTO TAKAGAMINE & VIALA

湯は、心を無にする。

人はこの世に生まれてくる前から「羊水」という名の湯に浸かっていた。その温度は母親の体温より少し高めの38℃。この温度が胎児を感染から守るという。
 羊水という神秘の湯に、人はどんな想いを巡らせながら浸かっていたのだろう?当然ながら知る者はいない。ただ、こんなにも風呂に浸かりたくなるのは、あの頃の記憶の欠片が身体のどこかにうっすらと残っているせいかも、と妄想してしまう。
 そんなことを「東急ハーヴェストクラブ京都鷹峯&VIALA」で考えた。ここは会員制リゾートで、知る人ぞ知る穴場ホテル。大自然の借景と素晴らしい日本庭園を有する「しょうざんリゾート京都」の一角に位置し、京都の中心部にしては珍しく天然温泉が湧いている。正面に見える鷹峯たかがみねが花札の8月の絵札「すすきと月」の舞台ということにちなみ、このホテルのモチーフは月だ。

大浴場「宙(Sora)」の外観。
同じモチーフのオブジェが、ホテルのエントランスで客を出迎える。

大浴場の一つ、「宙(Sora)」もつるんとした月をイメージして作られた。外観は天が産み落とした卵のようだが、中に入るとどこか子宮を感じる。湯を波立たせると音が反響し、光を取り込むための丸い天窓がまるで月のように湯面に映り込む。ここはまさに瞑想するための空間。目を閉じて脳を休め、浮かび上がってくる雑念を鎮めるように呼吸を整える。瞑想とは心を無にすること。湯の力を借りれば、それが比較的安易なことを今回改めて実感した。
 奇しくも、月と子宮は密接な関係にある。この風呂で過ごす時間は、もしかすると羊水に浸かっていたあの頃に重なるのかもしれない。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

東急ハーヴェストクラブ
京都鷹峯&VIALA

敷地内に湧出する天然温泉は、優しい湯あたりで「美肌の湯」と呼ばれる。
写真の瞑想風呂がある「宙(Sora)」と、檜風呂がある「地(Kuni)」の2種類を有する。