心の拠り所となる湯。
銭湯は、その町に暮らすすべての人の居場所である。そんなあたりまえのことを東京・豊島区にある「妙法湯」は思い出させてくれる。
西武池袋線・椎名町駅から歩いて数分。80年以上この地で営業してきた妙法湯は、2019年にリニューアルオープンした。日本で初の軟水炭酸シルキー風呂や、人気のシャワーヘッド「リファ」を取り入れたり、海外の人も利用しやすいようにスーツケースも入る大きなロッカーをつくったり……。銭湯になじみが薄い人も興味を持てるような、多彩な要素が加わった。
あたらしい風を吹き込んだのは、祖父、父から営業を受け継いだ3代目の柳澤幸彦さん。地域の業者とコラボしてオリジナルのビールやグッズをつくるなど、様々なアイデアで妙法湯の個性を打ち出し、来る人を楽しませている。
そんなアイデアマンである柳澤さんは、現在、東浴信用組合の理事を務めている。さらに民生委員や豊島区の広報をはじめ、これまで銭湯と並行しながら多くの仕事を手掛けてきた。そのどれもが人と関わり、向き合う仕事だ。
「どんな仕事でも、やる気のある人がどんどん変えていけばいいんです」と、柳澤さんは言う。
民生委員の経験から地域の子どもと関わる機会が多かった柳澤さんは、妙法湯でサロンを開くようにもなった。学校や家庭に居場所がない子どもたちや、地域のお年寄りが集い、つながれる場として、銭湯が機能している。
湯は、子どもでも入りやすいように約39度に設定。営業は午後3時から深夜1時まで。当然、清掃も真夜中になってしまうが、夜間ランナーに重宝されていることもあり、終業時間を変えるつもりはないという。柳澤さんに活動の原動力を尋ねると「大好きなお客さんの存在」という答えがすぐに返ってきた。ただ入浴をするための場ではなく、人と人が交差する場として妙法湯は町に根付いている。いまの時代の、理想的な銭湯のかたちかもしれない。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
妙法湯
- 〒171-0021 東京都豊島区西池袋 4-32-4
- TEL : 03-3957-8433
- URL : https://myohoyu.com/
- 料金:一般¥550
営業時間:15時〜25時
定休日:月曜日