山で見つけた第二の人生。
標高が高く、冬はひどく冷え込むことから「関西のチベット」と呼ばれる大阪・能勢。その山奥にある「山空海温泉」は、1991年に開業した公衆浴場。建物の壁に描かれた大きな温泉マークが、どんな湯と出会えるのか期待を高めてくれる。
シャワーの水はもちろん、トイレの水も温泉と同じ源泉でまかなう。「掘れば出る」と言われるほど一帯は水脈が豊か。もともとは、鍼灸院のオーナー夫妻が掘り当て、患者たちのために開いた温泉だった。90年代後半に誰でも入浴可能になると、炭酸水素ナトリウム硫黄泉を沸かして作る、心地の良い湯が評判になった。神経痛、関節痛、皮膚病などに効能があり、湯治として通う常連客も多い。
温泉だけではなく、バーベキューやピザ窯の設備があるのも山空海温泉ならでは。初夏には川辺に蛍が現れ、保育園に通う子どもたちが見に来ることもあるという。子どもから、30年近く通う常連まで同じ空間にいて、それぞれ楽しんでいる。そんな場の中心にいるのが、管理人の奥野正幸さん。奥野さんもかつては常連客の一人だった。新聞社で記者として働いていたが、病を患い、湯治目的で通うように。温泉に入り続けるうちに体は元気を取り戻し、9年前にオーナーから正式に管理人を任された。
「早期退職をして、ブラブラしながら風呂入りに来ていたら、オーナーから手伝うよう言われて。それで温泉に浸かっているうちに5年くらいでだんだん体が動くようになってきて、もう最後は『あんたに任せる』って」
営業がある日は、毎朝7時頃から2時間半かけて灯油で湯を沸かす。自然に囲まれている分、夏は大量の虫、冬はマイナス14度まで冷え込む寒さと戦うことになるが、それでもここに来てよかったと思う日々だという。
「この前、会社のOB会があってな。いまはもうみんな仕事していないけど、俺はここでまだ仕事をしていて。当時は悩んだんやけど、ここに来て正解やと思って」
山奥にある温泉で続く営みを、奥野さんは今日も守り続けている。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
山空海温泉
- 〒563-0123 大阪府豊能郡能勢町下田尻801
- TEL : 090-7887-0995
- URL : https://www.town-of-nose.jp/member/sankuukaionsen
- 料金:一般¥1000
営業時間:10時〜17時
8時〜17時(日·祝)
定休日:木曜日/金曜日 臨時休業あり