湯は、言葉を超えて心をつなぐ。

湯は、
言葉を超えて心をつなぐ。

　湯道の仲間が少しずつ増えてきた。そして続々と「いい湯についての情報」が寄せられるようになってきた。青森出身のＫさんが人生の記憶に残る湯として推薦してくれたのが、お隣秋田の「鷹の湯温泉」である。
　秋田最古の秋ノ宮温泉郷を代表する川沿いの秘湯。湯質が素晴らしく、特に冬の雪見風呂が最高だというので足を運んでみた。

　極寒の露天風呂。入口こそ男湯と女湯に分かれているものの、脱衣所を抜ければ同じ露天風呂に通じている。寒さに震えながら掛け湯をして静かに湯に浸かる。無色透明の塩化物泉。少しだけ熱めだが、顔に当たる冷気のせいで長く浸かって居られる。この宿を家族で守り続けている四代目主人の小山田光太郎さんは、「設備や食事の豪華さよりも、この湯の質を守ることを最優先にしてきた」と胸を張る。確かに、この湯に浸かれるのなら、もうこれ以上の贅沢は言わない。そして何より、湯の有り難みを増幅する雪の絶景。雪見風呂は、過酷な砂漠の中に存在するオアシスの幸福に似ている。

　実は今回、アメリカからやってきた友人を伴っての旅であった。彼にとって雪見風呂は人生初めての体験。互いに何も語ることなくただひたすらに湯を嗜み、自然の厳しさと優しさを心に刻む。時折、目が合うたびにニンマリする我々は、たぶん同じことを考えていた。湯は、言葉を超えて心をつなぐのだ。