湯道百選

08.5
北海道・帯広

メムアースホテル

MEMU EARTH HOTEL

何もない、豊かな暮らし

 帯広空港から車で50分、大樹町芽武の地に、「メムアースホテル」はある。2018年11月にオープンしたばかりだが、建物に隈研吾氏や伊東豊雄氏が関わっていることから、旅行好きそして建築好きからも熱い視線を集めている。プロデューサーの佐藤剛史さんにお話を聞いた。


「ホテルというと普通、ゲストとホストの線引きがしっかりされている場合が多いと思いますが、メムアースホテルでは、従業員とお客さんの距離が近いのが特徴です。たとえば、お母さんの誕生日祝いで旅行に来たご家族がいたのですが、前もって旦那さんと一緒に考えてサプライズを仕掛けたり……帰られる頃には、お客様とはいつも、すごく仲良くなれます。」
 現在、宿泊は1日1組限定。だからこそスタッフとも深いコミュニケーションがとれる。オープンから3ヶ月が経ったいまは、都内、そして十勝まで車で来られる札幌からの宿泊客が多いという。


 およそ5万6千坪の広大な土地で体験してほしいのは、普通だけど豊かな暮らしだと、佐藤さんは言う。
「十勝はものが少ないからこそ、時間で景色が変わっていくのがよくわかります。とにかく空が広くて、視界の9割が空、という感じ。とくに夕日がきれいです。
暖かい季節になればいろいろな生き物にも出会えますし、冬はマイナス30度まで下がるので、ものすごく寒いです。ホテルだけど環境的にはアウトドアに近い、どちらかといえば不便な場所。でも、寒いときは暖炉の前でごはんを食べましょう、とか、スタッフが家から持って来た囲炉裏でお餅を焼いて楽しみましょう、とか、不便を楽しめる場所でもある。それが他のホテルと違うところですし、魅力。東京は、新しいものを積み重ねていくことが豊かさに繋がる街だけど、十勝はいい意味で余白がたくさんある場所。その何もない時間を楽しんで、豊かな暮らしとは何か、気づくための時間を過ごしていただければ」


 併設のレストランでは、地元でスカウトしたシェフが腕を振るう。定番のメニューは2つ。アイヌ語で“静かな庭”の意味のワイン「モミンタラ」に合わせた季節野菜のオードブル。もう1つは北海道開拓のルーツにちなんだ鍋物。ほかにはシェフが農家へ直々に買い付けに行く野菜や、ハンターから仕入れた鹿や熊など、その時々の料理を楽しめる。「十勝の食の強みは素材の良さ。僕がいちばんインパクトを感じたのが野菜です。そのまま食べるだけでも、野菜が持つ甘みや味の強さを感じられます。本来の良さをもっと引き出せるようなメニュー開発に、今後も挑戦していきたいです」


 最後に、佐藤さんがお客さんにいちばん伝えたいことを聞いた。
「お客様に第二の故郷をつくってもらうことをコンセプトにしているんです。アットホームというと安っぽくなりますが、心の拠り所のような場所にしていきたい。非日常的な観光としての宿じゃなくて、『帰りたい』とスタッフの顔が思い浮かぶような場所にしていきたいです」



Text by Chako Kato
Official photographs of MEMU EARTH HOTEL

メムアースホテル