湯道百選

07
福島・飯坂温泉

鯖湖湯

SABAKOYU

湯は、心の垢も洗い流す。


福島の奥座敷と称される飯坂温泉には、9つの共同浴場がある。なかでも松尾芭蕉も訪れたと言われる「鯖湖湯」は、その佇まいからして美しい。1平成5(1993)年に改築されたものの、日本最古の木造建築浴場と謳われた当時の味わい深い姿をそのまま留めている。
 この鯖湖湯に浸かるため、あえて近くに宿を取った。夜が明ける直前、三重の老舗「おぼろタオル」で誂えた湯道専用の手拭いを携えて鯖湖湯に向かう。一番風呂に浸かりたくて、朝6時の営業開始前に行ったのに、すでに先客がいた。ここの湯が熱いのは、入り口の扉を開けた途端にわかる。濛々と立ち込める湯気で浴室の全貌が見えない。余所者に見られまいと、慣れた仕草でかけ湯をした後、熱いのを承知で湯船に身体を沈めた。


うっ、覚悟していた以上に熱い!
 温度は46度を越えているだろうか。この湯に平然と浸かっている地元の人たちが高い山に見える。と思いきや、先客の老人が「お兄さん、そっちは特に熱いから、我慢しないでこっちに来なさい」と声をかけてくれた。厳しさの中で出合った優しさは、心の垢を洗い流す。

地元の人たちと肩を並べて湯に浸かれば、旅人は自ずと知らない日常を彷徨い、旅の深みが増す。だからたとえ素晴らしい温泉を備えた旅館に泊まっても、その地に共同浴場があれば必ず足を運ぶようにしている。


飯坂温泉は、秋保(あきう)温泉、鳴子温泉と並ぶ奥州三名湯のひとつ。日本武尊が湯治をしたという伝説に始まり、鎌倉時代には西行法師、そして1689年には松尾芭蕉が訪れた。最古の共同浴場、鯖湖湯は美しいヒバの建屋に御影石の湯船を備える。源泉の温度は51度。PHは8.6のアルカリ性低張性温泉で、神経痛や筋肉痛などに効果がある。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Muton