湯道百選

06.5
兵庫・有馬温泉

陶泉 御所坊

TOCEN GOSHOBOH

有馬温泉の壮大なルーツ


有馬温泉は鉄分と高濃度の塩分を含み濃厚な「金泉」と、無色透明で発泡性のある「銀湯」の2種類の泉源(金泉6つ、銀泉1つの計7つ)を有する歴史ある温泉街。今回の「陶泉 御所坊」では、金湯の御所泉源と妬泉源が混合したお湯を源泉掛け流しで楽しめる。日本三古泉のひとつにも数えられる有馬だが、土地にはある秘密があった。

「普通、温泉は火山の熱で温められて湧出します。しかし、近畿地方には火山がありません。ですから、本来、有馬の湯は高温の温泉として湧くはずがないのです。」
 「御所坊」取締役で十五代目金井四郎兵衛さん。地球や日本列島の誕生や、温泉が湧く原理について、勉強を重ねてきたという。

 火山活動がない有馬の地になぜ温泉が湧くのか、理由は地殻活動にある。フィリピン海プレートが日本列島に沈み込む際に引き込まれた海水が、地下60キロの地熱によって温められ、それが温泉となって噴出しているのだ。


「60km下から湧いている有馬温泉は600万年前の海水なんです。まだ、日本列島がいまのかたちにもなっていない頃ですね。これは世界でも唯一だと思います。海水の塩分濃度が3%のところ、有馬温泉のお湯は6%あるところもあります。もしかすると、世界一塩辛い温泉かもしれません。」
 御所坊の名物は、大浴場の「金郷泉」。ひとつの空間を男女で楽しんでほしいという金井さんの思いから生まれた半混浴式の大浴場なので、家族でも楽しめる。空気に触れて、赤褐色に色づいた濁り湯は、もちろん源泉掛け流しだ。


 世界でもまたとない、特別なお湯ならではの苦労もあるという。
「温泉には炭酸カルシウムも多量に含まれていますから、成分が結晶化して、お湯の湧出パイプがすぐに詰まってしまうのです。3、4日に一度の頻度でパイプを交換する泉源もあります。でも、このパイプを何かに活かせないかと考えていて、思いついたのが、サンゴを育てること。炭酸カルシウムはサンゴのえさになるらしいのです。しかし、実際にやってみたところうまくいかなかったのですけれどね。」

御所坊が長い歴史と名実にあぐらをかくことはない。金井さん、そして息子の一篤さんは共に温泉の未来について考え続けている。
「中国の方が日本の温泉地開発について学ぶツアーがあって、有馬温泉にもたくさん来ていただいています。負けないようにしないと、という危機感もありますね。
それから最近は、海外の方から『温泉の入り方のマナーを教えてほしい』という声も多い。せっかく日本に来ていただいているからには、文化や価値観をわかってもらえた方が、温泉も面白くなるはず。しっかり伝えていければと思います。」


 
 

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御所坊の16代目、金井一篤さん。有馬温泉の魅力を世界に発信すべく、オーベルジュの展開や地元の豊かな自然の保護、地元で生産される食材の活用などにも力をいれている。

Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

陶泉 御所坊