湯は、友を呼ぶ。
湯道を開き、9度目の春を迎えた。湯に向かう姿勢と想いに共感した人々による「湯道部」が各地で自然発生していることに、とても勇気づけられる。なかでも最大規模を誇るのが、三重県津市にある「BAR FILM」という紹介制サロンのメンバーで結成された湯道部。部員数、実に180名。各自が好きな湯に浸かり、それを SNSに投稿したり、時には集まって語り合うという緩やかな活動を展開している。湯道を始めるにはそれで十分。湯とはなにか、その問いに対するささやかな「気づき」から始まるのだ。
彼らが三重県一と太鼓判を押す銭湯が伊賀市にある。まもなく創業百年を迎える「一乃湯」である。唐破風屋根の建物は、国の文化財にも指定されている。時間に磨かれた佇まいや場内の雰囲気はもちろん素晴らしいのだが、それ以上に人の集う匂いがするのがいい。この銭湯は、人と人、人と街をつなぐ磁場となっているのだ。
運営しているのは「銭湯を日本から消さない」を社是にして銭湯を継業している京都の「ゆとなみ社」。代表の湊三次郎さんは、実はこの一乃湯をお手本のひとつとして数々の銭湯を再生してきたという。道理で、ここは大きなリノベーションを行わずとも居心地がいいのだ。今回は湯道部の有志が集まり、湯を楽しんだ。世代も職業もバラバラ。初めて会ったのに友のような感覚で話が弾む。湯の縁で継承された一乃湯に、湯の縁で知り合った者同士が浸かる・・・改めて、湯は人の心をつなぐ糸のような存在なのだと思った。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto
一乃湯
- 〒518-0848 三重県伊賀市上野西日南町1762
- TEL : 070-3352-2440
- URL : https://yutonamisha.com/
- 営業時間:14時〜23時
定休日:木曜日
料金:一般470円
※許可を得て撮影しております。営業中は脱衣場、浴室の撮影はできませんのでご留意ください。