湯道百選

91.5
静岡県・伊豆市

あさば旅館

ASABA RYOKAN

真の豊かさは
あたりまえの中に。


修善寺のあさばと言えば誰もが知る名旅館だ。500年以上の歴史がある中、数年おきに建物は改修の手が入り、最近では現代アートで彩られたサロンも誕生した。常に清潔感がありお客様にとって使い勝手がいい空間にしたい─背景には、現主人 浅羽一秀さんのそんな想いがあった。

「1日の中でも、朝、夕方、夜で部屋の雰囲気は変わりますよね。夏の朝や冬の朝など、季節によっても変わる。旅館の中にいれば『今の季節、この部屋はここがいいな』など、美しいところが見えてくる。旅館をどんな空間にすればいいのか、自然と答えは出るんです」
宿泊客が豊かな時間を過ごせるように、その時代ごとにふさわしい旅館の姿を考える。誰よりもあさばの空間が好きだと語る、浅羽さんにしか出来ないことだ。2023年の改築で、16室あった客室を12室にまで減らしたのは、より万全に宿泊客と向き合いたいという想いからだった。


あさばが日本きっての旅館と讃えられる理由のひとつに、おもてなしの心がある。たとえばお風呂で、浅羽さんが特に気を配っているのがお湯の温度。約42度(夏場は40度)の温度に設定しているのは、それが最も“余計なことが気にならない”お湯加減であるからだ。

「仕事のこと、家族のこと、自分のことを考えることもあれば、ただ目の前の自然を眺めて、『いいな』となる時間もあると思います。ぼーっとしたり、思索しさくにふけったり……お風呂はそんな時間が過ごせる場所にしたいです。そのためには気が散らないように、清潔であることも大事。浴場のタオルを確認したり、床に髪の毛が落ちていないかチェックしたり、従業員が1時間おきに必ず見回りをしています」


木の香りが絶えないよう桶や腰掛けは1年ごとに新調し、白木の色がきれいに出るようにカンナや紙で削るなど、日頃の手入れも欠かさない。どんな宿泊客でも思い思いに過ごせるようにと、最上の“気にならない空間”が用意されているのだ。
 宿泊客に心から寛いでもらうための気遣いを欠かさない─あさばのもてなしの心は、どんな信念から生まれているのだろう。
「あたりまえと言えば、あたりまえのことをやっているだけ。でも、それをきちんとやり続けることは本当に難しいんです。あたりまえをより細かく磨き上げるための努力を、日々していきたいと思います」

 あたりまえを積み重ね、磨くことでしか真に豊かな時間は生み出せない。あさばで過ごすひと時は、訪ねる人にきっとそんな気づきも与えてくれるだろう。


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

あさば旅館

  • 〒410-2416 静岡県伊豆市修善寺3450-1
  • TEL : 0558-72-7000
  • URL : https://www.asaba-ryokan.com/
  • 料金: ¥192,650~
       「羽衣」(2名1室利用時 1泊2食付き)