さまざまな湯のぬくもりで
生まれた、まるきん温泉。
映画『湯道』の主な舞台となる銭湯「まるきん温泉」にはいくつかのモデルがある。一つは、かつて長崎の唐人屋敷通りで営業をしていた銭湯「丸金温泉」。惜しまれながらも、2009年に廃業した。
そして、同じく長崎は小浜温泉にある「おたっしゃん湯」も、まるきん温泉を語る上では欠かせない銭湯だ。創業は1937年、昭和の空気感をそのままに残した共同浴場。脚本を手がけた小山薫堂さんと監督の鈴木雅之さんをはじめとする映画チームがシナリオハンティングで訪れた際、その素朴な佇まいに感銘を受けたのだという。
映画のまるきん温泉は中央に浴槽がある関西風の造りだが、これはおたっしゃん湯の浴場を参考にしているのだそうだ。ちなみに「おたっしゃん」という少し不思議な響きは、近くで商店を営んでいた女性の名前にちなんでいる。まさに土地の歴史と共に歩み、愛されてきた、なくしてはならない浴場だ。
もう浸かることができない湯と、今でも訪れる人の心も体も温めてくれる湯。さまざまな湯のぬくもりにあたためられて生まれたのが、まるきん温泉であり『湯道』の物語だ。映画館を出たあとは、ぜひ自分が好きな銭湯や温泉、または家のお風呂に、ゆっくりと浸かってほしい。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
まるきん温泉
- 〒 非公開
- URL : https://yudo-movie.jp/
映画『湯道』の主人公・三浦史朗と悟朗の実家として登場する「まるきん温泉」。監督がイメージしたのは、シナハンで訪れた長崎の「おたっしゃん湯」(湯道百選第11回)。 町の人に愛される古き良き浴場。セットの道具は、2021年に廃業した京都の「柳湯」(第4回)から借り、本物さながらの空間となった。