湯道百選

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京都府・京都市

HOTEL THE MITSUI KYOTO

HOTEL THE MITSUI KYOTO

湯は、静謐せいひつたたえる。

京都には、日本を世界に発信する力がある。芸術、芸能、工芸、料理……あらゆる日本文化が京都という街を媒介にして世界の観光客に届けられる。

 もし、日本の風呂文化をより広く世界に発信するならば、ここが最も相応しい場所だと思った。「HOTEL THE MITSUI KYOTO」のサーマルスプリングSPAである。京都には素晴らしい水脈があるが、なんとここは天然温泉。敷地内の地下1000mから湧き出すナトリウム・カルシウム−塩化物泉が、プールの如き巨大な浴槽に注がれる。源泉名は京都二条温泉。浴槽は2つに区切られており、38°Cと39°Cというぬるめの設定になっているのが長湯好きには嬉しい。

混浴なので水着を着用し、湯に浸かる。この空間のテーマは「静謐を湛える」。実にうまい表現だ。そう、世界の富裕層はきっとこういう世界観を切望しているに違いない。体温に近い柔らかな湯にゆっくりと身体を沈めると、自然と坐禅を組みたくなった。仄かな灯りが巨大な天然石を照らしている。洞窟で瞑想するように、すべてを無にしてこの気配に身を任せると……穏やかな時間が自分の中に流れ込み、押し出された心のざわめきが湯に溶けてゆく気がした。15分に一度、天井から流れ落ちるシャワーカーテンの水音が静寂を破る。これはまさに、坐禅における警策けいさくのようなものだ。

 この日、気がつけば、1時間以上も湯に浸かっていた。湯上がりの清々しさこそ、この温泉の最大の効能かもしれない。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto

HOTEL THE MITSUI KYOTO

  • 〒604-0051 京都府京都市中京区油小路通二条下る二条油小路町284
  • TEL : 075-468-3100
  • URL : https://www.hotelthemitsui.com
  • ¥113,850円~(1泊一室料金)

地下鉄東西線「二条城前」駅から徒歩3分。二条城を臨む三井家ゆかりの地に誕生した最上級ラグジュアリーホテル。エントランスは、300年以上の歴史をもつ「梶井宮門」を修復再現。サーマルスプリングの他に、SPAトリートメント、貸切プライベート温泉、ジムなどがある。