湯は、街の灯りとなる。
まず、その妙な名前に惹かれた。今年でちょうど創業100年。当時は電気で沸かしていたから「電気湯」。いまはガスで沸かしているけど「電気湯」。電気風呂はないけど「電気湯」。逸話に事欠かない銭湯なのである。なにしろ4代目となる現主人の経歴から面白い。大久保勝仁さん、28歳。大学で建築を学び、ニューヨーク国連本部に就職。若者が参画できる場所をつくり出す仕事をしていたが、家業の継ぎ手がいなかったことから大胆な転身を決断した。
SDGs関連の活動をしていたこともあり、公共空間における銭湯の価値をずっと考えていた。ローカルなことをやりたいという思いもあった。とはいえ、銭湯運営に関してはまったくの素人。ひとりでやる自信がないので、銭湯に興味のある知人を集めてサークル運営のような感覚で引き継いだ。
最近流行りのデザイナーズ銭湯ではない。目指すのは「究極のご近所銭湯」。地元に愛され、それを磨いていくという姿勢が素晴らしい。デザインや見栄えよりも、まず掃除。清潔な脱衣所は凛とした雰囲気に包まれている。東京でも一、二を争う高い天井から降り注ぐ光は、湯に浸かる前から客の心を解きほぐす。
湯をつくり始めてまだ2年。時々、熱過ぎたりぬる過ぎたりするのはご愛嬌。それを笑えるくらいに気分がいい。井戸水を沸かした湯は、地元の人たちとのふれあいも相まって心まで温まる。店主と常連客のさりげないやりとりを見ると、電気湯が街を照らす灯りの発電所のように思えてきたのであった。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
電気湯
- 〒131-0046 東京都墨田区京島3丁目10−10
- TEL : 03-3610-8998
- URL : https://denki-yu.studio.site/
- 定休日 土曜日
営業時間 15:00〜23:00(最終受付22:30)
大人 480円
小学生 180円
乳幼児 80円
サウナ 200円(タオル1枚付)
京成電鉄押上線の京成曳舟駅から徒歩5分。
開店前から常連客が外に並び、街の人に愛されていることがわかる。
常連客と入浴することも日常で、まさにご近所付き合いの延長的な感覚。
ときに120℃にも達するサウナと水風呂も併設している。