そこは、地元の憩いの場。
福岡県福岡市南区横手の住宅街に、温泉の看板が掲げられた一軒家がある。1969年創業の「博多温泉 元祖元湯」。50年以上町の人々に愛されてきた温泉だ。特徴は、49度という高温のお湯を加水せず源泉かけ流しにしていること。熱さに初めは戸惑うものの、やがてクセになる……という評判が客の間で飛び交っているという。
「子どもの頃は熱すぎて、嫌だなあと思っていました」と語るのは、現主人の安部隆宏さん。もともとは両親が営んでいた温泉。製薬会社を定年退職した後、本格的に引き継ぎ、妻の恵美さんと二人三脚で営業している。「喧嘩しながらやっていますよ」と安部さんは楽しそうに話す。
番台に掲げられた表には「午前九時から午後五時まで 大人九〇〇円」「午後五時から午後六時まで 三五〇円」と現在とは異なる入湯料が書かれている。これはかつて、朝から夕方までを温泉で過ごすお年寄りがいたことの名残り。2階の休憩所を利用しながら、お弁当持参で1日を元湯で過ごし、家族の迎えを待つ人が何人もいたのだとか。幼かった安部さんは、休憩所の大人たちに囲碁や将棋を教えてもらいながら放課後を過ごしていたという。長いあいだ、地域の人に支えられ、支えてきた。今でも常連客は多く、コロナ禍以前は小学生が地域学習の一環で見学に来ていたなど、地域での交流は続いている。
「利益を考えると温泉をもっと大きくするべきなんでしょうが、
やっぱりお客さんに喜んでもらえることがいちばん大切なんですよね。父も母もそれを考えて、あまり大きくしてこなかったのかもしれないと、今になって思います」
安部さん夫婦による元祖元湯の物語は、まだ始まったばかり。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
博多温泉 元祖元湯
- 〒811-1311 福岡県福岡市南区横手3−6−18
- TEL : 092-591-6713
- 営業時間:13:00~18:00
定休日:毎週木曜日
入浴料:13:00~15:00 600円、15:00~17:00 500円、17:00~18:00 400円
博多駅からクルマで約15分。湯は塩化物泉。県内有数の湯量と熱さを誇る。入場料金で何度でも入浴可能なため、早い時間ほど入浴料が高く、遅い時間は低く設定される。