湯は、復興の核となる。
明治19年(1886年)、気仙沼港に「亀の湯」という一軒の銭湯が開業した。そこはやがて、三陸沖で操業する漁師たちに愛され、憩いの場に。船ごとの専用桶が30〜40は置かれていたという。そして創業から125年目の3月11日、亀の湯は被災。一度はボランティアの援助により復活したものの、防潮堤建設のため立ち退きを余儀なくされ、2017年に泣く泣く廃業した。
気仙沼は「海といきる」というスローガンを掲げている。それにも関わらず、漁師さんたちを迎える風呂屋が一軒もない、と考える女性たちが現れた。地元「気仙沼つばき会」の女将たちだ。
「気仙沼を、日本一漁師さんを大切にする町にしたい」との想いで活動している彼女たちは、行政に頼ることなく自力で銭湯を開業。伝説となった亀の湯におめでたい鶴を足し「鶴亀の湯」と名付けた。中古のトレーラーハウスを改造した銭湯。正面には、1976年に行われた「気仙沼みなとまつり」を描いたペンキ絵が掲げられ、海の安全と大漁を祈願する神棚が置かれている。紛れもなくここは、漁師を迎えるための風呂だ。ただし洗い場は狭く、浴槽はプラスチック。もちろん温泉ではない。それでも真水を沸かした湯は、船上で潮にまみれた海の男たちを至福の時間へと誘うのである。
銭湯だけでは経営が立ち行かなくなるのは明らか。そこで彼女たちは隣に「鶴亀食堂」を開いた。ここに来れば、いい湯に浸かって、うまい飯を食える。東日本大震災から10年、漁師たちを優しく包み込む気仙沼の素顔をこの湯に見た気がした。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
鶴亀の湯
- 〒988-0037 宮城県気仙沼市魚市場前4-5みしおね横丁
- TEL : 0226-25-8834
- URL : https://kesennuma-tsurukame.com
- 時間:07:00〜15:00
定休:日曜日
※銭湯は冬季休業あり。事前にお問い合わせください。
料金:大人440円
中人(小学生以下)140円
小人(未就学児)80円
※漁船員の方は、問屋さんから配られる風呂割引券があれば240円になります。
JR気仙沼駅からクルマで約10分の場所にある気仙沼市魚市場。朝7時から営業する市場の前にあるのが「鶴亀の湯」だ。一般入浴も可能だが、漁船員を優先。銭湯の番台の役割も担う「鶴亀食堂」には、漁師と観光客が入り混じり、交流の場になっている。元気な声と笑顔が訪れる人を、あたたかく迎える。