湯道百選

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広島・尾道

guntû

湯は、海上の雲となる。

「動く」ことは価値を生み出す。それを最初に実感したのは駅弁だった。止まっている列車の中で食べる駅弁はどこか味気ない。やはり流れる車窓の風景を見ながら、いや理想を言うなら日本晴れの空に映える富士山などの絶景を眺めながら頬張りたい。そっちの方が絶対に旨いに決まっている。と、するならば・・・一つの仮説が閃いた。風呂も止まっているより、動いている方がいい湯になるのではないだろうか?しかし駅弁のように浴槽を持ち歩くのは困難だ。絶景を眺めながら動く風呂なんてあるわけがない・・・と諦めようとした時、ガンツウの存在を思い出した。「そうだ、ガンツウに乗ろう!」・・・と言えるほど、簡単に利用できるお値段ではないが、奮発する価値はじゅうぶんにある。

「せとうちの海に浮かぶ、ちいさな宿」をコンセプトにしたクルーズ船、ガンツウ。世界に豪華な客船は数あれど、これは全くの別物と考えていい。クルーズ船を和風に設えた、というよりも、平べったい船の上に旅館を建てたというイメージ。これまで地中海クルーズに出かけていた時間が勿体なかったと後悔するほど、部屋は素晴らしく食事も旨い!

しかし今回のいちばんの目的は風呂である。サウナと水風呂を備えた最後尾の共同風呂も素晴らしいが、やはり極めつけは客室の露天風呂。穏やかな瀬戸内海に沈む夕陽を眺めながら、あえてぬる目に入れた湯に浸かる。頬を撫でる優しい海風が心地良く、ゆっくり動く景色を見ているうちに身体の中にある毒素が全て抜けていくのが分かる。まるで雲に包まれて海の上を進んでいるようだ。ガンツウの動く風呂は、旅の余韻として今も心の深いところに刻まれている。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

guntû

  • 〒720-0551 広島県尾道市浦崎町1364-6
  • TEL : 0120-489-321
  • URL : https://guntu.jp/
  • 2泊3日間/ 1室2名利用の場合の1名あたり47万5000円~ 110万円(税・サ込、食事込) ※航路、プラン、客室によって異なる

全19室の客室は4種類。全室が海を見渡せるテラス付きのスイートルーム。木の優しい温もりに包まれた船内には、優しくゆったりとした時間が流れている。
瀬戸内の新鮮な野菜や魚介をつかったお食事も魅力のひとつ。メインダイニングの奥には、6席限定の鮨カウンターがあり、目の前の海、せとうちで揚がる旬の魚を、思う存分堪能できる。