平和の尊さを
噛み締める銭湯

今年は戦後80年という大きな節目の年。そんな夏に浸かりに行くべき湯は、ここしかないと思った。
広島市東区にある「三本松湯」。街の景色に溶け込んだ自分好みのレトロな銭湯である。創業は昭和初期。銭湯の斜め前に松の木が三本あることから、名付けられた。そして1945年8月6日午前8時15分。爆心地から約3km離れた三本松湯も大きな被害を受けたが、かろうじてその原型を留めることはできた。ここは、被曝した当時の壁をそのままに現在も営業を続けている広島で唯一の銭湯なのだ。

その直後は、避難所としても使用され、多くの住民が寝泊まりをしたという。創業者の孫に当たる現当主の高土志朗さんは三代目。先代の父からは、「銭湯を引き継ぐ必要はない」と言われたものの、この湯を愛してきた常連たちの顔を見ているうちに「やめるわけにはいかない」という想いが芽生えた。

広島の銭湯の特徴でもある三段式の浴槽に身を沈め、静かに時間を巻き戻す。少し熱めの心地良い湯の中で、80年前の夏を想像した。
2年前から家業を手伝い始めた四代目は、最近、敷地内の駐車場を利用してコーヒースタンドを始めた。被曝した壁の前で、風呂上がりに自家製珈琲牛乳を飲む。毎日当たり前のように湯に浸かることのできる「平和」という価値がどれだけ尊いものか、改めて考えた。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Kazuyuki Nakano
三本松湯
- 〒732-0047 広島県広島市東区尾長西1-5-7
- TEL : 082-261-0464
- 料金:一般 ¥500
営業時間:16時〜22時
定休日:水曜日/土曜日