湯への感謝を心に刻む。
2022年、京都某所に「慈湯釜」は誕生した。大徳寺真珠庵第二十七世住職である山田宗正氏の手によって作られた、湯道の拠点と言える場所。山田和尚は湯道の精神をあらわす「湯道温心」の言葉を授けてくれた人でもある。
古くから名水の地と名高い京都。慈湯釜があるのも豊かな水脈が広がる土地だ。湯は、和尚様が薪で沸かしてくれる。その薪も和尚様が冬のあいだに割って作り、自ら管理しているものだ。慈湯釜を訪ねた人は、五右衛門風呂にゆっくりと浸かり、湯と向き合う時間をひとり過ごす。
「この水もいつまで汲めるか。そのまま飲めるきれいな水をお風呂に使う、贅沢な国はあんまりないのではないでしょうか。水に対する感謝の念、お湯に対する想いというのは、湯道の根幹でしょうね」
慈湯釜は湯の道を極めた人にのみ開かれる。
「全国津々浦々、素晴らしいお湯に浸かっている方々に『すごくいいお湯でした』と言っていただけて。一度ならず、二度も入っていただくこともありました」
湯に向かう姿勢を磨くことが、湯道を極めることにつながっていく。水への感謝をあらためて心に刻める風呂。湯道の総本山としてこれ以上の場所はないだろう。
体が温まり、心も温まるから「湯道温心」。日本ならではの入浴文化が100年、200年先へと受け継がれていくことを、湯道に携わるすべての人が願っている。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto