湯道百選

95.5
長崎・雲仙市

薫風の湯

KUNPU NO YU 

薫る記憶を風にのせて。


旅館としての歴史が始まったのは1968年。背景には1966年に開通した熊本・天草と九州本土を結ぶ天草五橋の存在がある。開通の影響で雲仙への観光客が増え、旅館の必要性を感じた先代が、営んでいた土産物店から一転、オープンさせたのが「雲仙 福田屋」だった。

雲仙温泉は701年にその歴史が始まり、古くから温泉地として栄えてきた。主な泉質は硫黄泉や硫酸塩泉。福田屋の温泉の泉質はpH2.4の酸性単純硫黄泉、白濁したにごり湯だ。敷地内から自然湧出した湯を源泉掛け流しで使用している。


「薫風の湯」は、2つある露天風呂のひとつ。名付けたのは代表の福田努さん。
「雲仙全体は硫黄の香りで包まれています。雲仙に一歩足を踏み入れると、必ず硫黄の香りが『おかえり』と出迎えてくれる。香りというのは、旅の思い出でいちばん深いものだと思っています。見晴らしのいい3階にある露天風呂で、風が山の緑の香りと温泉の香り、さらに街の中の香りも運んでくれるということで、『薫風の湯』にしました」
 風を浴びながら源泉掛け流しの温泉を楽しめる薫風の湯。2024年の春にリニューアルし、より心地よい環境の中で湯と向き合える空間になった。


現在の福田屋は、遠方からはもちろん長崎県内からの宿泊客も多い。長崎市内から1時間ほどで到着する、ホッとできる場所として長崎の人に重宝されているのではないかと、福田さんは考えている。
「近いところへ発信をしていくのは大事だと思っています。『もうひとつの我が家に来た』と思える場所にしたいんです。家では味わえない非日常……温泉と料理、お部屋でのくつろぎ。この3つを融合することで、記念日ごとに訪れてもらえるような心温まる宿でありたいですね」


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

薫風の湯