湯は、
地域文化の結び目となる。
茶道がそうであるように、湯道も文化芸術の結び目でありたいと常々思っている。湯に浸かり楽しむだけにとどまるのではなく、湯をきっかけにさまざまな文化や芸術、工芸品に触れ、土地への眼差しが愛に満ちたものになる……それが湯道の理想とするかたちだ。
佐賀県の嬉野温泉は、その最たるお手本と言える。「和多屋別荘」三代目小原嘉元さんは、開湯1300年の温泉を核とし、500年前に栽培が始まった「うれしの茶」と400年続く「肥前吉田焼」を結びつけた。三つの伝統文化を掛け合わせたイベントが、各地で開かれている。
まさに嬉野温泉の結び目である和多屋別荘の中に、素晴らしい湯室を備えた部屋がある。川向いの離れ「水明荘」には鍋島藩の別邸を移築した特別貴賓室「洗心」がある。とりわけ露天風呂が素晴らしい。入浴しながら一日を過ごすヴィラのようなイメージでつくり上げられた空間。自家源泉から直接注がれる優しい湯に浸かり、冷たいうれしの茶をいただく……穏やかな風さえもご馳走のようだ。なるほど、確かにここなら時が経つのも忘れて湯を堪能できる。
実はこの宿では、専任の大工を二人も抱えている。釘を一本も使わない部屋の改装から、湯舟の設えまで、すべてが自前。建築家やデザイナーには頼らず、小原さんの理想とするイメージを文章で伝え職人が読み解いて図面にも落とさずに仕上げるという。
数寄者が一人いるだけで、地域が輝きを放ち始めることを嬉野で実感したのであった。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Kei Sugimoto
和多屋別荘
- 〒843-0301 佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙 738
- TEL : 0954-42-0210
- URL : https://wataya.co.jp/
- 【料金】
日帰り入浴:一般 ¥1,100 小学生 ¥550(営業時間 12時~21時)
宿泊:水明荘 特別貴賓室「洗心」2名1室利用時 1泊2食付き
一般 ¥132,000