湯道百選

90.5
佐賀・嬉野市

和多屋別荘

WATAYA BESSO

土地の管理人として、
背伸びをしない魅力発信。

江戸時代より、宿場町として栄えた嬉野温泉。嬉野川を中心に、古くから多くの旅館がにぎわいを見せてきた。その川沿いに佇むのが、およそ2万坪の広大な敷地を有する旅館「和多屋別荘」だ。創業は1950年、長崎街道を往来する薩摩藩島津家が立ち寄ったお茶屋がその始まりで、今も建物の一部には島津家の紋がある。
 11年前、社長に就任した小原嘉元さん。和多屋別荘を拠点にしながら、名産である「うれしの茶」や「肥前吉田焼」の魅力を打ち出す様々な企画を立ててきた。2020年には日本の旅館としてはじめてサテライトオフィスを開業。客室や宴会場の一部を貸し出し、社員は温泉に入り放題などユニークな施策が話題を呼んだ。コロナ禍での休業を経て21年には「Reborn Wataya Project」が始動し、館内に飲食店やスパ、茶寮などを設け、旅館を“泊まる場所”から“通う場所”へと進化させた。

名の知れた旅館の三代目だが、意外にも「旅館」という業態そのものにはこだわりがないという。
「あくまでも、職種は旅館の経営者ではなく、2万坪の土地の管理人。管理人として全権を持たせてもらっているのでそこで役に立つことはしたいですが、『嬉野のために』と考えるのは自分にとっておこがましいこと。次に社長になる人にも、私の意思を継いでほしいとはまったく思っていません。それが十字架になるようなら捨てて、まったく新しいことをしてもらって構わない。変えることでお客さんが幸せになるなら、何も言いません」
 400年の歴史がある「肥前吉田焼」、それよりさらに長く続いてきた「うれしの茶」、そして温泉。一時の流行ではなく、普遍的な価値のある文化が嬉野の地には息づいている。イノベーションを起こすのではなく、すでにそこにある魅力をより輝かせる。そして、より多くの人へ届くような仕掛けを作ることが、2万坪の土地の管理人としての小原さんの仕事だ。
「軸足にあるのは、背伸びをしないこと。嬉野の日常そのものに価値があると思っています。インバウンドも含めてお客さんが足を運ぶための装置が、すでにこの街にはある。それをベースにしながら、日本に限らずアジアのローカルエリアとしての嬉野を目指していきたいです」

Photo by watayabesso


Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto

和多屋別荘

  • 〒843-0301 佐賀県嬉野市嬉野町下宿乙 738
  • TEL : 0954-42-0210
  • URL : https://wataya.co.jp/
  • 【料金】
    日帰り入浴:一般  ¥1,100 小学生 ¥550(営業時間 12時~21時)
    宿泊:水明荘 特別貴賓室「洗心」2名1室利用時 1泊2食付き
       一般  ¥132,000