湯道百選

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岐阜・中津川市

ランプの宿 渡合温泉

LAMP NO YADO DOAI ONSEN

湯は、
茶とともに幸を編む。


ただ抹茶を飲むのではなく、そこに見せるための点前を加え、美意識に基づいた道具で客をもてなす・・・それが「茶の湯」であり、さらに洗練されたのが「茶道」である。その礎を築いた僧の珠光が、湯道発祥の地である大徳寺・真珠庵に眠っていることは歴史の必然・・・とは言い過ぎだろうか。
 茶の湯ならぬ「茶と湯」という遊びを考えた。舞台は裏木曽にひっそりと佇む「ランプの宿 渡合温泉」。携帯の電波は届かず、電気すら通っていない点は、創業した江戸の終わりと変わりない。木を知り尽くした6代目の主人は、最も水に強い高野槙で浴槽を設えた。底のみが五右衛門風呂式になっており、弱アルカリの冷鉱泉を薪で沸かしている。外はマイナス15℃。湯煙が立ち込める中、南木曽の仲間たちと共に極上の湯に浸かった。


そこに歌舞伎役者の顔も併せ持つ茶師が現れ、湯に合わせて茶を淹れる。一杯目は、木曽を舞台にした島崎藤村の「夜明け前」にも登場する、ねぶ茶と呼ばれる健康茶。熱い湯に浸かっていると嗅覚はさらに鋭敏になるのか、その香りにやられた。汗が額を伝い始めたところで二杯目が供された。外の深雪をイメージしたかき氷に、熱々のほうじ茶を注ぐ。氷はたちまち溶けて、瞬時に冷茶に変わる。このお茶の美味いこと!紛れもなく人生一の冷茶である。溶けきれずに器の底に残ったわずかな氷を見て、私はこの茶に「春雪しゅんせつ」という銘をつけた。
 茶の美味しさと風呂の心地良さで幸を編んだ一夜は、生涯忘れえぬ記憶となるだろう。

中津川の茶師、市川尚樹さんにより、この茶会のために考案された一服。熱々でもきれいな香りが出るほうじ茶は、雪を瞬時に溶かし冷茶が完成する。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Tomohiro Matsunaga

ランプの宿 渡合温泉

  • 〒508-0421 岐阜県中津川市加子母渡合
  • TEL : 090-1092-8588
  • URL : https://www.doaionsen.jp/
  • 料金:13,460円〜(1泊2名利用時 1名料金)/日帰り入浴(要予約)500円
    営業:4月1日〜11月30日(冬季は休業)

岐阜県の付知峡にひっそりとたたずむ秘湯の一軒宿。電気が通っておらず、テレビも冷蔵庫も携帯電話も使えない。今回の茶会は、「Zen Resorts」が主催する「美の茶会」。「Zen Resorts」は、南木曽で古民家ラグジュアリーホテル「Zenagi」を運営しながら、土地の魅力を発信している。
※今回の茶会は特別に開催されたもので、「ランプの宿」で通常提供しているものではありません。