湯は、
人と海をひとつにする。
自分の湯の先に水平線が見える。碧く浮かび上がっているそれは、これから始まる夜を告げている。日本海の厳しい荒波に揉まれているはずなのに、極楽にいるかのような心地良さ。この相反する二つが罪悪感となり、それに比例して快感が増す。耳に届く波の音を心で聴くと、いま自分に必要な何かをメッセージされているような気がしてくる。
ここは、日本三大聖域の一つに数えられている能登半島の突端、珠洲岬。別名、聖域の岬とも呼ばれ、火山岩の地質からは塩化物泉が湧き出している。その湯をひいた秘湯の一軒宿が「葭ヶ浦温泉 ランプの宿」である。創業は実に1579年。当時建てられた440年前の柱が今も使われている。だからと言って決して古臭い宿ではない。
十四代当主の刀祢秀一さんは、世界中のリゾートを視察した上で、革新的な挑戦を続けてきた。全14室のうち、9室が露天風呂付き。なかでも二階建ての離れは、かつてこの地域にあった舟屋(一階が舟をそのまま格納できる納屋、二階が住居)をベースに、タヒチのボラボラ島の水上コテージを融合させたイメージでつくられている。その最たるものが、「波の湯」と名付けられた貸切風呂だ。波しぶきを浴びそうな程に突き出している建物の床はガラス張りになっていて、足元に海が見える。そしてこの湯船と海の間に遮るものは何もない。
夏の優しさと冬の厳しさの両極を持ち合わせている「波の湯」に浸かっていると、この湯がまるで自然と同化するための扉のように思えた。
Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton
ランプの宿
- 〒927-1451 石川県珠洲市三崎町寺家10-11
- TEL : 0768-86-8000
- URL : http://lampnoyado.co.jp/
- 宿泊料金:¥22,150〜(1泊2食付/税込)
貸切風呂料金:¥3,000(50分)
のと里山空港からクルマで80分、能登半島の最先端に佇む秘湯の宿。眼下に広がる日本海は、冬は荒々しいものの夏には一転、湖のように穏やかになる。「世界農業遺産」に登録された能登の豊かな食材を使った食事も魅力。写真(メイン)の貸切風呂「波の湯」は宿泊者であれば誰でも利用できる(要予約/有料)。