湯道百選

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青森・八甲田

酸ヶ湯温泉

SUKAYU ONSEN

湯は、
身体と心を回復させる。

病院というものがまだ存在していなかった頃、日本人は温泉の力にすがっていた。長期間滞留して湯に浸かりながら病を治す・・・つまり湯治である。この湯治という行為は平安時代に公家の間で流行り、やがて禅宗の普及と共に僧侶、そして戦乱の世になると武家に広がる。庶民が湯治を目的に旅をするようになったのは、江戸に入ってから。やがて明治になり、温泉がようやく観光地とみなされるようになった。

青森県の酸ヶ湯温泉は、およそ300年に渡って愛されてきた湯治の名湯である。深いブナの森に囲まれた素朴な風情を残す山の宿には、今も多くの湯治客が訪れる。
 ここの主役は、総ヒバ造りの「ヒバ千人風呂」。160畳の広さを誇りながら、中央には柱が一本もないためその光景は圧巻だ。そして何より、昔ながらの混浴スタイル。慣れない身としては戸惑いながら突入したが、数メートル先が見えない程に立ち上る湯煙に余計な羞恥心は掻き消された。


打たせ湯や掛け湯を含めて、4種類の湯があるのだが、特に「熱の湯」と名付けられた正面の浴槽がいい。その名に反して41℃とぬる目。しかし浴槽の底から湧き出す源泉のおかげで、身体の芯から温まり、長時間それが持続する。
 4つの湯を巡りながら、一回の入浴はおよそ30分。これを一日多くて5回。そして十日滞在するのが湯治の平均的な目安らしい。


湯三昧の時間を想像するだけで、その幸福感に身震いしてしまう。湯治の旅は、自分にとって究極の贅沢かもしれない。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

酸ヶ湯温泉

  • 〒030-0197 青森県青森市荒川南荒川山国有林酸湯沢50番地
  • TEL : 017-738-6400
  • URL : http://www.sukayu.jp/
  • 料金:一般1,000円(立ち寄り・タオル付)
    時間:07:00〜18:00(うち、08:00〜09:00は女性専用時間)

青森空港から車で1時間、青森県の中央にそびえたつ八甲田山に酸ヶ湯はある。手負いの鹿が湯に浸かり、驚くスピードで傷を癒したことから「鹿湯」が名前の由来という説もある。卓越した効能と豊かな湯量などが認められ、1954年に「国民保養温泉地第1号」に指定された。泉質は、酸性の強い硫黄泉で、療養に適した温泉。版画家の棟方志功もこの湯を愛し、湯治をしながら作品を制作した。