湯道百選

08
北海道・帯広

メムアースホテル

MEMU EARTH HOTEL

湯は、クリエイションを刺激する。

北海道は十勝の大樹町に「建築の聖地」があることは意外と知られていない。「メム・メドウズ」と名付けられた寒冷地実験住宅施設。隈研吾氏や伊東豊雄氏など日本を代表する建築家の実験住宅や、さらには全世界の大学生が競い合う建築コンペティションの最優秀作品が実際に建てられ、広大な敷地内に点在している。こうした建築作品を宿泊施設として再活用する「メムアースホテル」がつい先日開業した。
その共同浴場としての役割を果たす「コロボックル・ネスト」は、九州大学のチームが設計した歴史に残る風呂と言っていいだろう。何しろ、たった一つの浴槽のために巨大な建築物が存在しているのだから。アイヌ神話に登場するコロボックルの住処「蕗の葉」をモチーフにした浴槽の下には、暖炉を設えた竪穴式住居のような空間がある。皆が森に入って枝を拾い集め、それを燃やして湯を沸かす。つまり人を団結させることを目的に、風呂を主語としてこの建物は設計されたのだ。

残念ながら、拾い集めた木々だけで湯を沸かすことは物理的に難しく、通常の給湯設備を導入せざるをえなかったのだが、古墳の如き浴槽に身を委ねれば自身の身体と北の大自然が同化する感覚になる。見上げればそこにあるのは天空のみ。真っ青な空、あるいは満点の星空。雪の壁に切り取られた原始と変わらぬ風景がある。そう、ここはクリエイターが思索に耽るための究極の”庵”でもあるのだ。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

メムアースホテル

とかち帯広空港より車で約50分、5万6千坪の牧草地に点在する建物を利用したメムアースホテルは、「実験住宅に宿泊する」ことをテーマにした、新しい形態のホテルだ。現在は1日1組限定、1棟貸しという形態をとり、「北海道の自然環境との共存」を目指す。古墳のような共同浴場「コロボックル・ネスト」も大自然と同化できる特別な施設だ。