地元客と観光客の目線で。
奥州三名湯のひとつである福島県の飯坂温泉。9つある共同浴場は地元の人に人気だが、評判を聞いた観光客も多く訪れるという。今回は、飯坂の観光交流拠点である施設・旧堀切邸館長の阿蘇保男さんに、鯖湖湯そして飯坂温泉について話を聞いた。
「『鯖湖湯』という名前の由来はよくわかっていません。鯖湖湯の近くに川が流れていたから、魚へんの漢字があてられたのではないか、とも言われています。松尾芭蕉や西行法師が立ち寄った言い伝えが有名ですが、他にも与謝野晶子や正岡子規が訪れた記録もあります」
飯坂温泉の特徴は、そのお湯の熱さにある。飯坂の土地には源泉が12個ほど点在しているが、どれも平均より温度が高く、鯖湖湯のお湯は46度近くある。地元の人々はこの熱さこそを好んでいるが、観光客の「これではとても入浴できない」という声が多々届いたこともあり、阿蘇さんはある改革に乗り出した。
「熱くて子どもが入れないなら、共同浴場とは名乗れないと思いました。『仙気の湯』と『道専の湯』を10年前に改修をして、風呂場を二槽化したんです。片方はそのまま、もうひとつは慣れていない方でも入れる42度に調節をして。2011年1月にオープンした『波来湯』も、その造りにしました。観光客の方のためにも、これからは二槽化が浸透してほしいですね。もちろん、お湯はすべて源泉掛け流し。温度調節の加水も浴槽に入れる直前にしています」
阿蘇さんは7年前まで福島市役所に勤めており、その頃から飯坂温泉関連の事業に携わっていた。退職後、現職の堀切邸館長の座に。飯坂温泉全体をいま以上に盛り上げたいと、言葉にも力が入る。
「私が子どもの頃、飯坂温泉にはものすごく活気があったんですよ。夜は、下駄履きで丹前を羽織った人がたくさん歩いていて……。でも、新幹線や高速道路の開通もあり、福島が通過点になってしまってわざわざ訪れる人が減ってしまった。何年か前に久しぶりに町を歩いたら、夜なのに地元の人にも観光客にも誰ともすれ違わなかったことにショックを受けたんです。温泉事業でまた飯坂を盛り上げたい、というスイッチが入りました」
ノスタルジックな雰囲気が支持され、飯坂温泉はまた注目を集めている。伝統ある温泉街ゆえに一筋縄ではいかないこともあるが、阿蘇さんは観光客目線、そして地元にも利益がしっかり還元される仕組みをつくりたいと、日々奮闘している。
「高齢者の方は無料で入浴ができるシステムにできないか。小学校のプールに温泉をひいて、冬にも入れるようにできないかとか……温泉でやってみたいことはたくさんあります。まだまだ、道半ばです」
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
鯖湖湯
- 〒960-0201 福島県福島市飯坂町湯沢32
- TEL : 024-542-5223(共同浴場問い合わせダイヤル)
- URL : https://iizaka.com/spa/
- 営業時間:06:00-22:00(最終入館21:40)
休み:月曜(祝日の場合は水曜休)
料金:一般 ¥200