湯道百選

05.5
石川・山代温泉

あらや滔々庵

ARAYA-TOTOAN

18代目主人の挑戦。

(18代目荒屋源右衛門 談)

18代目を継いだのは26歳のときでした。旅館を「あらや滔々庵」の名前にしたのは私の代からです。お料理やサービスなど、旅館の売りはいろいろありますが、やはり温泉あってこその宿。さらに広くとらえれば、温泉は何百年も前から、その土地が授かった財産のようなものだと思い、湯への感謝の意味も込めて命名しました。



お料理で心がけているのは、どの季節でも、素材を活かしたシンプルなものをつくること。食材そのものに手をかけて、そしてその料理に合う器で提供することを大切にしています。器は北大路魯山人の作品を何点か所有しているので、合う料理であればそれで出すことも。
料理、それを盛り付ける器のバランス、そしてそれを食べる空間など……そのすべてをふくめての「日本料理」であると、私たちは考えています。魯山人の器で料理を出し始めたのは、本当にごく最近のことなんです。宿の料理も含めて、魯山人の器で提供できるところまで来られたかな、と思うところがあり、少しずつ使わせていただいています。


お料理や魯山人の作品が見られるのもそうですが、「あらや滔々庵」の名物のひとつは、旅館の離れの「有栖川山荘」。夜はバーラウンジになります。いまでこそ旅館でワインを飲めるのはあたりまえですが、2001年のオープン時には、まだめずらしい存在でした。使われていなかった離れをお客様に楽しんで使ってもらえないかと考え、生まれたアイデアでした。

うちは不思議と「客層」というものがなく、30代から70代まで幅広いお客様に来ていただいています。最近は若い方も増えている印象です。いまの若い人は旅行に興味がない、とよく言われますが、そんなことは決してないはず。楽しんでいただきたい、よい気分で帰っていただきたい、という想いをお客様にしっかりお伝えしていけば、それはきちんと届くものだと思っています。



 


Text by Chako Kato
Official photographs of Araya-Totoan

あらや滔々庵