「坐忘林」ができるまで。
(グリッグ翔矢 談)
オーストラリアから日本に来て25年になります。20年前に結婚して以来、奥さんと一緒に日本全国のいろいろなホテルや旅館を泊まり歩きました。やはり温泉がある旅館がいちばん素晴らしいと思っていたのですが、その一方で、「すごくいいけど、こうしたらもっと素晴らしくなるよね」と話し合うことも多かったんです。「だったら自分でつくるしかないんじゃない?」ということで、3年前に自宅の隣に、友人と共に「坐忘林」を開きました。
北海道・ニセコの羊蹄山を望む土地に建つ坐忘林。温泉はすべて源泉かけ流しで、15の客室のすべてに内湯と露天風呂が備え付けられている。湯はミネラルが豊富で、硫黄の匂いが薄くクセもなく、誰もが入りやすい。また、大自然と一体化している建物はサスティナビリティを意識し、木材や石材のほか、他の現場で使用した資材などを意識して使っている。
-Photographs by Shouya Grigg
ショーヤ氏は、「坐忘林」の基本的なデザインアイデアを担当した。
-Photographs by Shouya Grigg
「坐忘林」の名前は建築家の中山眞琴さんや奥さんと話し合って決めました。お客さんには林の中で、普段の生活を忘れて頭の中になにもない空間をつくってほしい、と。いまの人はみんな毎日忙しく過ごしていますから。そういう私も、もっとゆっくりした生活を送りたいと考えているのですが、毎日好きなことをしていますし、忙しいのも自分の生き方だと割り切っています(笑)。
-Photographs by Shouya Grigg
そもそも坐忘林は、はじめから旅館にしよう、ホテルにしようというつもりでつくったわけではありません。これまでになかった「なにか」をつくりたい、という気持ちが強かった。私自身が写真やデザインなど、いろいろなことをやるうちに得たインスピレーションが、たくさん活かされています。同じように、たとえば坐忘林のインテリアや窓からの景色を見て、泊まりに来たお客さんがなにかを思いついたり、始まったりすることがあるかもしれない。リラックスすると、体や頭のなかに空間が生まれる感覚がありますよね。その空間に、新しいものが入るかもしれない。旅館というよりも、様々な表現ができるひとつのステージをつくったようなイメージなんです。
–Photographs by Yohei Murakami

Text by Chako Kato