湯道百選

70.5
鳥取・東伯郡

木屋旅館

KIYA RYOKAN

江戸から続く、
迷子になる旅館。


「木屋旅館」は江戸時代の頃から三朝の地を見守ってきた。当初は庄屋と旅籠の兼業で営業を始めたが、明治の頃から旅籠が専業になり今に至る。玄関で客を出迎える木の看板は、その当時から受け継がれてきたもの。100年前の窓ガラスも現存しているなど、建物自身がその歴史の深さを物語っている。そんな木屋旅館を訪ねた客は、まず館内の地図を渡される。明治、大正、昭和と、時代ごとに増築を繰り返してきた建物は、とても複雑な造りになっているためだ。


「温泉施設を作ってから、それを保護するようなかたちで増改築を繰り返しているので、間取りが迷路のようになってしまって。2010年には全館が登録有形文化財に認定されました。携帯で館内から『迷ってしまったので迎えに来てほしい』と電話をかけるお客様もいらっしゃいます」と、木屋旅館の御舩利洋さんは言う。実際に地図を見ると本当に迷路のようだ。三階建てで、半地下にある風呂もあるため、階段の上り下りもすると、確かに自分がどこにいるのかすぐに見失ってしまう。しかしそんな非現実感も、宿の売りの一つなのだと言う。


山岳信仰の聖地であり、「神と仏の宿る山」とも呼ばれる三徳山との関係も厚い。山への参拝者が禊として、または登山後の疲労を癒すために浸かる風呂として三朝温泉は栄えてきた。この連綿と続いてきた歴史と文化は、日本遺産第一号にも認定されている。
「三朝温泉で身を清めて、山に上がる。そこで修行をしたり身を清めたりして、下りてくると、疲れたところを三朝の湯で精進落としをして、また俗世に戻っていく。それが三朝の流儀でもあります」

木屋旅館主人の御舩秀さん(左)と息子の御舩利洋さん。

 木屋旅館の主人である御舩秀さんに、木屋旅館のこれからを尋ねると、楽しそうにこう答えてくれた。
「今の建物を維持して、それを楽しんでもらえるといいですね。旅館自体がもう文化財なんです。いかに維持をして、日本文化や温泉文化を味わっていただくかですね。うちのお客さんは欧米の人が多くて、昭和50年代に書かれた本を持ってくるお客さんもいます。その本に書かれている当時の値段で泊まれるんだろう、と言ってくるんです。しょうがないから『では、どうぞ』と、言いますけどね(笑)。面白いことがいっぱい起こります」


Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto

木屋旅館

  • 〒682-0123 鳥取県東伯郡三朝町三朝895
  • TEL : 0858-43-0521
  • URL : https://www.misasa.co.jp/
  • <宿泊>
    ¥18,700~
    (1 泊 2 食付き、1 室 2 名利用料金)

鳥取空港からクルマで約40分。明治元年から続く老舗旅館。ラジウム温泉を生かした宿づくりを行っている。明治時代から増築を重ねた建物は、全館が登録有形文化財に認定されている。館内には、56~80°Cの源泉が点在。飲んでも、その蒸気を吸っても効能があるという 。