湯道百選

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東京・墨田区

電気湯

DENKIYU

湯は、街の灯りとなる。

まず、その妙な名前に惹かれた。今年でちょうど創業100年。当時は電気で沸かしていたから「電気湯」。いまはガスで沸かしているけど「電気湯」。電気風呂はないけど「電気湯」。逸話に事欠かない銭湯なのである。なにしろ4代目となる現主人の経歴から面白い。大久保勝仁さん、28歳。大学で建築を学び、ニューヨーク国連本部に就職。若者が参画できる場所をつくり出す仕事をしていたが、家業の継ぎ手がいなかったことから大胆な転身を決断した。

4代目主人の大久保勝仁さん。10月10日生まれで「銭湯の申し子」と言われている。

SDGs関連の活動をしていたこともあり、公共空間における銭湯の価値をずっと考えていた。ローカルなことをやりたいという思いもあった。とはいえ、銭湯運営に関してはまったくの素人。ひとりでやる自信がないので、銭湯に興味のある知人を集めてサークル運営のような感覚で引き継いだ。

最近流行りのデザイナーズ銭湯ではない。目指すのは「究極のご近所銭湯」。地元に愛され、それを磨いていくという姿勢が素晴らしい。デザインや見栄えよりも、まず掃除。清潔な脱衣所は凛とした雰囲気に包まれている。東京でも一、二を争う高い天井から降り注ぐ光は、湯に浸かる前から客の心を解きほぐす。


湯をつくり始めてまだ2年。時々、熱過ぎたりぬる過ぎたりするのはご愛嬌。それを笑えるくらいに気分がいい。井戸水を沸かした湯は、地元の人たちとのふれあいも相まって心まで温まる。店主と常連客のさりげないやりとりを見ると、電気湯が街を照らす灯りの発電所のように思えてきたのであった。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

電気湯

  • 〒131-0046 東京都墨田区京島3丁目10−10
  • TEL : 03-3610-8998
  • URL : https://denki-yu.studio.site/
  • 定休日 土曜日
    営業時間 15:00〜23:00(最終受付22:30)
    大人 480円
    小学生 180円
    乳幼児 80円
    サウナ 200円(タオル1枚付)

京成電鉄押上線の京成曳舟駅から徒歩5分。
開店前から常連客が外に並び、街の人に愛されていることがわかる。
常連客と入浴することも日常で、まさにご近所付き合いの延長的な感覚。
ときに120℃にも達するサウナと水風呂も併設している。