受け継がれるスピリットと
現代との融合。

１９２８年、三井物産初代ロンドン支店長を務めた加地利夫の別荘として建てられた「葉山加地邸」。設計を担当したのは、かのフランク・
ロイド・ライトの弟子で、帝国ホテルの建設にも携わった遠藤新氏。２０１７年には国の有形文化財に認定されるも、近年、老朽化が進んでいた。そこで加地家から建物を受け継いだオーナーの武井雅子さんを中心に、民泊施設として貸し出しができるよう改修計画が持ち上がり、クラウドファンディングで一部資金を調達。２０２０年の秋より民泊事業がスタートした。

今回のリノベーションを手掛けたのは、建築家の神谷修平さん。
「登録有形文化財なので、大きな変更ができるのは地下の使用人室・倉庫しかありませんでした。そこに日本らしいゆったりとしたお風呂をつくりました。全体の改修コンセプトは『保存と遊び』。日本ではオリジナルを忠実に保存することが優先されがちですが、当時の遠藤新さんの遊び心を受け継ぎ、新旧が融合した改修デザインとしました。加地邸を作った頃の遠藤新さんと、今の自分が同い年くらい。プレッシャーを感じずに等身大で取り組むことができました。」

大部分の意匠はそのままに、９０年以上前の建築物に現代的な機能を加える難しいリノベーション。苦労した点も多かったという。

「左官仕上げの壁が多い建物なのですが、現代の素材を使いつつ、違和感が生まれないような塗り替えとするため、２、３ヶ月かけて慎重に素材を選びました。そして、現代のライフスタイルに合った快適な空間とするために、水廻りの変更だけでなく、この建築スタイルを継承した新たな家具を各室に設えました。三角スツールやテラスの木製家具は、今回のためのデザインです。」

葉山加地邸は現在６名まで、最長１週間貸し切ることができる。９０年前の時代の空気が漂う中で快適なひと時を過ごせるのは、この上ない贅沢かもしれない。

Text by Chako Kato
Photo Takumi Ota