湯道百選

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千葉・長南町

ちょうなん西小の湯

CHONAN-NISHISHO NO YU

湯は、童心を手招きする。


都心から車で約1時間も走れば、その学校に辿り着く。仲間と泊まる学校「ちょうなん西小」である。人口が8千人に満たない千葉県長南町の長南西小が廃校になったのは2017年。その翌年、仕事探しの「マイナビ」が町から校舎を借り受け、団体向けの宿泊施設として運営を始めた。20人程度からの貸し切り利用が基本だが、一人およそ4000円で宿泊できるとあって、企業研修や大学のサークル合宿の場として重宝され、時にはウェディングでも利用されている。


何と言っても面白いのは、小学校の面影がそのまま残されていること。ここに足を踏み入れた途端、誰もがたちまち童心に帰る。懐かしさは人に原点を思い起こさせる。それこそがここの価値なのだ。


職員室を改装したカフェで珈琲を飲み、学校特有の匂いのする廊下を通って、5年生と6年生の教室に向かう。そこが自慢の浴室である。他の教室は黒板も残されているが、浴室だけはフルリノベーション。一人ずつ入る樽風呂と、大勢で入る四角い家族風呂の二種類の浴室が用意され、総檜で贅沢に仕上げられている。どちらに浸かろうか悩んだ末、今回は樽風呂を選んだ。


沸かし湯ではあるが、かつて神聖な学び舎だったところで極楽の湯に浸かるという罪悪感・・・そこにささやかな幸せを覚える。窓を全開にすると、運動場から心地良い風が吹いてきた。向かいの山の木々が嬉しそうに枝を揺らしている。こんなに気持ちのいい湯に一人で浸かるのはもったいない。事務所の弟子に声をかけて連れ入浴しているうちに、少しずつ師弟の絆が深まっていくのが分かった。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

ちょうなん西小の湯

  • 〒297-0145 千葉県長生郡長南町佐坪1348-1
  • TEL : 0120-154-244
  • URL : https://chonan-nishisho.jp/
  • 【料金】
    1泊1名¥4,400〜(20名以上/税込)
    1泊1団体¥110,000〜(20名未満の場合/税込)
    ※お風呂は、宿泊者のみ利用可

基本的にお風呂の利用は宿泊者のみだが、年2回は感謝デーとして、地元の方向けにオープン。昨年の台風時には避難所としても機能。広いお風呂だけでなく、綺麗な水回りや充実した設備で、多くの人がここで難を逃れた。宿泊施設として運用されるようになってから、周辺にカフェが4店舗オープンするなど、地域全体が活性化している。