受け継がれるやさしさ。
創業80年以上の歴史がある群馬県桐生市の銭湯「上の湯」。先代の孫である津久井美紅さんと夫の篤さんが後継者となり、2021年7月7日にリニューアルオープンを果たした。
美紅さんにとって、「上の湯」は幼い頃から身近な場所だった。共働きだった両親に代わり、保育園の送り迎えをしてくれたのは少し離れたところに暮らす祖父母の幸一さんと文子さん。“おばあちゃんの家がお風呂屋さん”であるのは、当たり前のことだった。「当たり前すぎて、継ぐことになるとは夢にも思っていませんでした」と、美紅さんは言う。廃業の直前で、篤さんが元々お風呂好きだったこともありふたりで後を継ぐことを決めた。
リニューアルにあたって、番台から脱衣所が見えないようにパーテーションを設置したり、浴槽を新しくしたり、手を入れた箇所がある一方で、タイル絵や下駄箱など昔のままにしているものもたくさんある。何より変わらないのは、お湯の温度。
「42度で、他の銭湯よりも少しぬるめです。熱いのが好きな方も多いのですが、ご高齢の方もいらっしゃるので。私たちが温度が高すぎるお湯があまり好きではないというのもあります。幅広い方に来てほしいので、家族みんなが入れるような熱すぎない温度になるよう気をつけています」。
ふたりのお湯の温度への配慮は、祖父の幸一さんから受け継いだものの一つだ。
「祖父も熱いお湯があまり好きではなくて、『いつも適温を提供したい』と言っていたと祖母から聞いていました。感じ方はそれぞれなので、『昔はもっと熱かった』と言うお客様もいますが、祖母いわく、『今くらいの温度だった』そうです」
祖父から孫の代へと受け継がれる、やさしさが詰まったお湯。そのあたたかさに惹かれて、常連さん、そしてSNSを見た若い人も最近はよく訪れる。文子さんと美紅さん、篤さんの3人が切り盛りする「上の湯」の物語は、始まったばかりだ。
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
上の湯
- 〒376-0023 群馬県桐生市錦町1-8-11
- TEL : 0277-43-8656
- URL : https://twitter.com/uenoyu_kiryu
- 料金:大人400円 小学生180円
営業時間:14:00〜21:00
定休日:月曜日
JR桐生駅近くにある銭湯。以前は一帯に40軒以上の銭湯があったが、いまでは2軒だけになった。春になると、軒先には藤の花が咲く。「家族みんなで入れる風呂」を目指し、湯はぬるめの42°C。