令和の旅籠。
2021年3月、リゾートブランド「アマン」の創業者であり、世界的ホテリエのエイドリアン・ゼッカ氏が、しまなみ海道の海岸沿いに旅館をつくった。旅館「Azumi Setoda」は、かつて塩田業を営んでいた「旧堀内邸」を改装。建築デザインは数寄屋建築を主とする六角屋の三浦史朗さんが担当した。
そのAzumi Setodaの向かいに佇むのが、別棟の「yubune」だ。銭湯、サウナ、湯あがりラウンジと14の客室を有する銭湯付きの宿泊施設で、同じく三浦さんが建築を担当した。
yubuneの銭湯は宿泊客以外の利用も可能。かつて、旅人と町の人の交流の場であった「旅籠」になぞらえてつくられた。
「yubuneが出来たことで、新しい人の動きが生まれました。瀬戸田の街には、若い人にも気さくに話しかける元気な方が多くて、その人柄や雰囲気に惹かれたのも私たちがここに旅館を開いた理由のひとつです。働く場ができたからと街に戻って来た方もいます。私たちがハブになっているというよりは、街の皆さんに自由に動いていただいている感じですね」と、女将の窪田淑さん。
銭湯を設けたのは、三浦さんのアイデア。エイドリアン・ゼッカ氏の「街に開かれた施設」という考えに基づいて、街との関係を持つ場として表現するのに、銭湯は最適だった。
yubuneの入り口の欄間をはじめ、もともと堀内邸に設えられていた調度品も、いくつか組み込まれている。
建築を担当した三浦さんは、
「堂々とした建物の中で、欄間や障子、器などの調度品はとても繊細で質が良い、豊かなものでした。京都の細やかさとはまた違って、豪快な部分と繊細な部分のバランスが絶妙だったので、それを合わせることを意識しました」
しまなみ海道の旅人と街の人々を結びつけるyubune。令和の旅籠の女将である窪田さんには、こんな未来図があるそうだ。
「『ここは私の家だ』と思いながら、地元の方々とコミュニケーションをとっています。たとえば、お客様から『釣りがしたい』と言われたら、『あの人が船を持っているから乗せてもらうといいですよ』とか、『レモンが食べたい』と言われたら、『◯◯さんの畑でもらって来てください』とか、そう言えるようになりたいですね」
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
yubune
- 〒722-2411 広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269
- TEL : 0845-23-7911
- URL : https://azumi.co/yubune
- 営業時間:10:00 〜 20:00
利用料金(銭湯):宿泊者:無料 大人:900円 子供:450円(税・サ込)
※回数券割引あり
※GW、8月、年末年始は、特別料金設定
利用料金(宿泊):¥22,000~(1泊1室、銭湯入浴料・朝食込、サービス料別)
広島空港からクルマで1時間、世界的なサイクリングロード『しまなみ海道』の途中に位置する人口約9000人の生口島。Azumi Setodaの宿泊者はもちろん、地元の人も利用する銭湯。yubuneは宿泊施設も兼ね備えており、畳敷のリビングを備えた客室は、サイクリストや家族連れが快適に過ごせるよう工夫されている。