湯道百選

38.5
三重・伊賀

池澤湯

IKEZAWAYU

人の想いが寄り集う、
町の銭湯。


現在の主人である池澤良武さんは三代目。初代にあたる祖父はもともとレンガ職人だった。市営の風呂屋の釜を積む仕事を終えた際、「釜を焚く人がいなくなったのであなたがやりませんか?」と頼まれ、その後、市から正式に委託をされて「池澤湯」が始まった。

三重県の銭湯で、壁に富士山が描かれているのは池澤湯だけだという。
「そもそもペンキ画があるのがうちだけなんです。壁が白かったので、うちの親父が自分で描いてしまったのが始まりです。最初に描いたのは天橋立で、それ以来、自分たちで何度か塗り替えていましたが、最近では看板屋さんにお願いをしています。今回は赤富士を描いてもらったのですが、これは夕陽ではなく朝日をイメージしています。富士山は朝日で赤くなったあと、日が昇ると黄色くなるので、女湯は黄色い富士山にしようと思っていたんです。でも、看板屋さんにイヤだと言われてしまって。そちらは白い富士山になっています(笑)」


池澤湯は建物のまわりも賑やかな絵で彩られている。実は池澤さん、引き継いだ当初は池澤湯を畳もうという意識が強かった。それを知った池澤湯を愛する人々が、「辞めないでほしい」という想いを込めて、外の壁に絵を描いてくれたのだと言う。池澤湯がいかに必要とされているかよくわかるエピソードだ。

池澤さんは銀行から転職して池澤湯の主人になった。他の銭湯にはない取り組みとして、時折、脱衣所で野菜の販売も行っているという。なぜ野菜なのか?
「知り合いの農家から、本来は捨てる野菜を袋いっぱいに100円で買って、そのまま100円で販売しています。捨てるはずのものに価値が生まれて、農家さんは次の生産のための種を買えるようになるんです」

ボランティアにより制作された外壁にも、富士山とともに野菜が描かれている。

「できる限り続けていきたい」と語る池澤さん。その人柄にも惹かれてか、客の9割は常連の人々だという。池澤さんに会いに、そして富士山の絵を眺めながら身体をあたためるために、今夜もたくさんの地元の人が池澤湯を訪れている。


Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton

池澤湯

  • 〒518-0846 三重県伊賀市上野愛宕町2892-4
  • TEL : 0595-21-4606
  • URL : http://www.udonya-ikezawayu.com/bath/
  • 料金 :一般400円
    時間  :15:00〜21:00(当面の間は、13:00〜19:00)
    定休日:水曜

忍者の里・三重県伊賀の風情ある街並みに佇む、昔ながらの銭湯。壁画は、三重で唯一のペンキで描かれた富士山。朝日が昇るときに赤く照らされる富士山を表している。湯あがりのおいしい伊賀・立岡牛乳は乳脂肪分が多く濃厚な味わい。池澤さんが経営する「うどん屋池澤湯」では、立岡牛乳を使った「霧隠れうどん」が看板メニュー。