湯道百選

31.5
東京・北区

滝野川 稲荷湯

TAKINOGAWA INARIYU

愛され続ける銭湯。

Photo by SHIMADA,Yusuke / apgm*

明治時代末期に創業した東京都北区滝野川にある銭湯「稲荷湯」。寺社のような宮造りの建物は1930年に建てられ、2019年に国の登録有形文化財に選定された。かつて銭湯の隣にお稲荷様があったことから「稲荷湯」と呼ばれるようになり、今ではその愛称が正式な名前に。昔からの常連はもちろん昔ながらの雰囲気に惹かれた若年層の銭湯ファンも通う、東京の名銭湯の一つだ。
 切り盛りするのは五代目の土本公子さんと俊司さんご夫婦。先代の紀子さんがよく口にしていた「銭湯は清潔さがいちばん大事」という信条を大切に守り続けている。公子さんは小学生の頃から銭湯の手伝いをしており、成人した3人の息子さんも小学校に上がる前から手伝いをしていたという。

先代の土本紀子さん。この笑顔に会うために多くの方が訪れていた。
Photo by Alex Mouton

銭湯の経営には苦労が多い。昼の12時頃から準備を始め、開店は3時。深夜1時15分に営業を終えると、お湯を抜いて2時半頃まで清掃作業。それからお風呂に入り、お茶やお酒で一息ついてからやっと眠りにつく。休日は毎週水曜日と元日のみ。旅行に出ることも難しいという。息子さんたちが六代目を継ぐかどうかはまだ決まっていないが、公子さんは少しでも自分の代で環境や経営を安定させたいと考えている。

深夜1時過ぎ。湯道家元である小山薫堂氏は、服の袖を捲り上げ、お風呂場の清掃に徹していた。浴槽はもちろん、脱衣所や鏡まで丁寧に磨いていく。途中、掃除用具のコードが引っかかり積んでいた桶が崩れるハプニングも。皆の明るい笑い声が響く中、稲荷湯が愛され続ける理由がわかった気がした。




Text by Chako Kato

滝野川 稲荷湯

  • 〒114-0023 東京都北区滝野川6-27-14
  • TEL : 03-3916-0523
  • URL : https://www.1010.or.jp/map/item/item-cnt-560
  • 料金 :一般470円
    時間  :15:00〜25:15
    定休日:水曜
    アクセス:都営三田線「西巣鴨」駅下車、徒歩6分
         埼京線「板橋」駅下車、徒歩6分

千鳥破風の屋根で戦前の面影を残すレトロな外観。玄関に「わ」の板がかかると営業中であることなど、江戸の銭湯文化が残る。映画「テルマエ・ロマエ」のロケ地になったことでも知られている。2015年に浴場を全面改装したが番台は昔のまま。綺麗で清潔ながら、懐かしさも残る銭湯に、毎日訪れる常連客も多い。