湯道百選

107.5
広島・広島市

三本松湯

SANBONMATSUYU

湯を沸かし続ける意味


三本松湯が創業したのは昭和の初め頃。現当主である高土志朗さんの祖父が建設業を営んでおり、広島県内にいくつか建てた銭湯のひとつだった。その中で今も営業を続けているのは三本松湯だけになったそうだ。

30年程前に志朗さんと慶子さんの夫婦は銭湯を引き継ぎ、三代目としてボイラーの取り替えや店内の整備をしながら、営業を続けている。
「『ここ、まだあったんだ』と、子どもの頃におじいさんと入ったのを思い出して、来てくれたお客さんも。『風呂に入って涙が出てきた』と言っていて、お風呂に入ると一気に子どもの頃に戻るんでしょうね。『何十年振りに前を通ったら、まだ開いているからびっくりして入りに来た』という人もいました」

広島の銭湯の特徴でもある三段式の浴槽。

時代の移り変わりもあり、銭湯の切り盛りには苦労が絶えない。近所にたくさんあった銭湯が店を畳んでいく中、三本松湯が今も店を続けているのは、通い続けてくれる人の存在がやはり大きいのだろう。
「お客さんのお一人から『風呂屋は文化なんだ』と散々聞かされました。そういうものを預かっているような感じですかね。番台に座っていろんな話を聞いたりすると、やめるわけにはいかんのかなあ、と」

番台に座る慶子さん。

現在は長男の純明さんが掃除を担当し、湯を沸かすのは志朗さん、番台に座るのは慶子さん。純明さんはカフェでのアルバイトをきっかけに、大学を卒業後コーヒーの道に進んだ。興味を持ってくれる人が増えれば、という思いもあり、銭湯の駐車場の一画に「サンボンマツコーヒー」を2025年の2月にオープンした。店を開けるのは、午前中に掃除を終えてから。純明さん自身も、慶子さんから「継がなくてもいい」と言われ続けてきたが、志朗さんが腰を痛めたことをきっかけに2年前から手伝うようになったそうだ。

「サンボンマツコーヒー」をオープンした長男の純明さん。

「今来てくださる人がこれからも来てくれるようにとは思っています。三本松湯を残していってほしい、とおっしゃっていただけることはすごく嬉しいです」と純明さん。四代目として継ぐことを決めたわけではないが、子どもの頃から当たり前にあった銭湯という場所を守っていることは確か。街の銭湯としての歩みを、三本松湯はもうしばらく続けていく。


Text by Chako Kato
Photographs by Kazuyuki Nakano

三本松湯

  • 〒732-0047 広島県広島市東区尾長西1-5-7
  • TEL : 082-261-0464
  • 料金:一般 ¥500
    営業時間:16時〜22時
    定休日:水曜日/土曜日