人生を豊かにする、
歴史ある水風呂文化。
“おんせん県”である大分でもめずらしい、冷泉を源泉掛け流しで味わえる秘湯「寒の地獄旅館」。館主の武石真澄さんは4代目で、旅館は1928年(昭和3年)に石田さんの曽祖父が創業した。開湯は1849年(嘉永2年)と170年以上の歴史があり、当初は村人によって湯船が作られ、湯治場として親しまれてきた。九重山の麓、標高1100mの高原にあり避暑地としても人気が高い。冬場は雪が降り、気温がマイナス10℃になることもあるそうだ。
特徴は、何といっても自然湧出の冷泉。温度は13〜14℃だが実際に入るともっと冷たく感じる。武石さんいわく「源泉は1分間に2トン湧いています。足元湧出なので湯船に波は立っていないのですが、常に水が入れ替わり、水流があるため冷たく感じるのかもしれません」とのことだった。2023年7月には「暖の地獄サウナ」が完成し、水風呂との交互浴ができるように。プロデュースはプロサウナーの松尾大氏らが中心となって手掛けた。
「ここにサウナができることでこれからの50年、100年続く、冷泉を通した水風呂の文化をうまく培っていけるようにと、松尾さんたちが考えてくださいました。最近のサウナのブームに乗るだけではなくて、あくまで冷泉に焦点を当てて、じわりじわりと文化として根付いていけるといいね、と話をしています」
開湯200年を前に進化を遂げ、全国のサウナファンからも注目が集まる寒の地獄旅館。この温泉だからこそ得られる喜びについて、武石さんはこんなふうに教えてくれた。
「お客様を毎日見ていると、ご高齢のお客様で、チェックアウトのときに杖を忘れて帰る方が年に数回いらっしゃるんです。湯治の効果が出ているということもありますが、旅を通して心もリフレッシュしてもらえることが、結果的に身体の健康に繋がっているのかなと思います。都会のサウナや水風呂では味わえない感覚ですね。冷泉に入ることで、日頃考えてばかりの脳が『冷たい、熱い、涼しい、あ、虫の声、鳥の鳴き声が聞こえる……』と感覚だけの世界になって、それが人生を豊かにするスイッチになると思うんです。うちの冷泉がたくさんの人にとって、そんな存在になっていくといいと思います」
Text by Chako Kato
Photographs by Alex Mouton
寒の地獄旅館
- 〒879-491 大分県玖珠郡九重町田野257番地
- TEL : 0973-79-2124
- URL : http://kannojigoku.jp/
- 料金:宿泊 一般 ¥16,500(1泊2食付、消費税込、入湯税別)
宿泊 オプション冷泉サウナ(基本プラン) 一般¥2,500
日帰り冷泉サウナ(2時間) 一般¥2500、中高生¥1000、小人:¥500
温泉入浴料金:一般¥700、小人:¥500
営業時間:8時〜20時
定休日:水曜日
大分県と熊本県の境に位置する、くじゅう連山の麓にある旅館。江戸末期嘉永2(1849)年に開湯。毎分2トン超えの豊富な湧出量を誇る単純硫黄冷鉱泉で昔から湯治場として親しまれてきた。