自然の恵みと日々の手入れで
開花する湯。
「薬師の湯」が和歌山県和歌山市 鳴神の地に開湯したのは奈良時代の頃、西暦803年と伝えられている。地質の変化から一時は噴出が止まったものの、昭和40年頃、ボーリングにより自然湧出に成功した。1200年以上の歴史を有する湯は、地下500mから湧き出る炭酸泉。ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄分のほか、天然の保湿成分・メタケイ酸といった成分を多く含み、たった一晩で湯面に見事な“湯の花”が生まれ育つほど、濃厚な温泉だ。宿泊客の中には、朝6時から、この湯の花のために一番風呂を目指す人も多いという。
成分豊富な温泉ゆえの苦労もある。湯に大量に含まれている炭酸カルシウムが酸化し、固まることで、まるで鍾乳洞のような堆積物で浴場が覆われてしまうのだ。放置しておくと、浴槽はサイズが小さくなってしまうほど堆積物で埋まり、さらに排水溝やパイプには詰まりが発生するなど、堆積するスピードは早く、量も多い。定休日を週に一度設けているのは、これをメンテナンスするため。炭酸カルシウムのかたまりはハンマーで叩き壊して取り除いていくが、頑固な時にはドリルやダイヤモンドカッターを使うこともあるという。解体工事さながらの“清掃”が、スタッフの手により毎週行われている。
三代目で現代表を務める中村源吾さんは、仕事のやりがいを「お客さんに健康になってもらえていること。お風呂に入ってもらって、施術を受けてもらって、目の前でお客さんが元気になっていくのが嬉しい」と語った。温泉にはカイロプラクティックの施術を受けられる「サロン花山」が併設されており、中村さん自身もカイロプラクティックの資格を所有。炭酸泉に浸かり血流がよくなることで筋肉の緊張が和らぎ、骨格の調整がしやすくなるため、非常に合理的なのだという。さらに、健康のためには春夏秋冬ごとにお気に入りの温泉を見つけて、1年を通じていろいろな湯に浸かり、楽しむこともおすすめだと言う。源泉の温度が25.2℃と低い花山温泉は、夏の入浴が特にいいそうだ。
「花山温泉では温冷入浴をした際に、ピリピリ感がなかったら毛細血管の調子がいい証拠。体のパラメーター、定期検診を受けにくるような感覚で湯に浸かりに来てほしいです」
手間ひまをかけて、とっておきの湯を管理し続けている花山温泉。豊かな成分はもちろん、訪れる人の健康を願う想いも、そこにはたくさん込められている。
Text by Chako Kato
Photographs by Kei Sugimoto
花山温泉 薬師の湯
- 〒640-8303 和歌山県和歌山市鳴神574
- TEL : 073-471-3277
- URL : http://www.hanayamaonsen.com/
- 通常料金:大人¥1,150、小人¥580
夕方17時以降割引料金:大人¥900、小人¥450
※宿泊時の料金は公式サイトからご参照ください
営業時間:8時~22時
定休日:木曜日(祝日営業)
JR和歌山駅からクルマで約10分。全12部屋の宿泊施設が併設されており、旬の素材をいかした食事に加え、カイロプラクティックなどのサービスも楽しめる。源泉風呂、大浴場、低温風呂、露天、水と、5種類の風呂に加え、サウナも楽しめる。