湯道百選

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佐賀・武雄

御宿 竹林亭

ONYADO CIKURINTEI

湯は、
自然と建築のかすがいとなる。

庭屋一如ていおくいちにょ」という言葉がある。庭と屋はひとつの如し……つまり庭と建物は一体である、という考え方だ。
 佐賀県武雄市に、まさしく庭屋一如の傑作と呼ぶに相応しい名宿がある。上皇上皇后両陛下もお泊まりになられた「御宿おんやど 竹林亭」である。時の領主・鍋島茂義が、神の住まう御船山の断崖を借景に15万坪の池泉回遊式庭園を造ったのは1845年。その広大な敷地内に存在する竹林亭は、わずか11の部屋しかもたない。その恵まれた眺望と起伏に富んだ地形を生かすため、客室の間取りはすべて異なる。

写真提供:竹林亭

なかでも、湯の道を邁進する者には「梧竹ごちく」と名付けられた部屋を薦めたい。佐賀出身の書家・中林梧竹にちなみ、露天風呂はもちろん、月見台や専用散策路まで有している特別に設えられた和洋室だ。高台の角に配された居心地のいい客室は、巨大なガラス窓に囲まれている。そこから見えるのは広々とした月見台と季節の移ろいを感じさせる草木。優れた建築は、奔放な自然を美しい作品に変える額縁でもあるのだ。


竹の生け垣を設えた露天風呂が手招きをしてくる。兎にも角にも、湯に浸かろう。宮本武蔵も入浴した記録があるというこの湯の泉賢は、弱アルカリ単純泉。長時間浸かっていたくなる絶妙の湯加減だ。霊験あらたかな御船山から吹き下ろす風が心地良い。目を閉じれば、草木のささめきが心に届く。ここが庭屋一如の中心。湯が自然と建築をつなぐかすがいとするなら、そこに浸かることで人は両方の美を吸収できるのかもしれない。

国登録記念物に指定された御船山楽園の池端にある「茶屋バー」は、宿泊者のみが利用できる特別なバー(19時〜23時のみオープン)。ライトアップされた自然が水面に映る風景は幻想的で、特に桜が咲く頃や紅葉の時期は楽園のようだ。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

御宿 竹林亭

  • 〒843-0022 佐賀県武雄市武雄町大字武雄4100
  • TEL : 0954-23-0210
  • URL : https://www.chikurintei.jp
  • 料金:¥58,850〜(1室2名利用時1名料金)

佐賀空港からクルマで約50分、湯の町情緒が漂う温泉街から少し離れた場所にある御船山に隣接した静かな宿。「ミシュランガイド福岡・佐賀 2014 特別版」および「ミシュランガイド福岡・佐賀・長崎2019特別版」で、最高評価「5レッドパビリオン」を獲得した実績をもつ。