湯道百選

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静岡・掛川市

倉真赤石温泉

KURAMIAKAISHI-ONSEN

湯は、心まで温める。


本業ではない趣味にふけり、それを楽しむことを道楽という。江戸では「園芸」「釣り」「文芸」の三つを指して三大道楽と呼ばれていたらしい。ならば自分が理想とするのは、まぎれもなく「湯道楽」として生きることだ。それを実践している人が、静岡県掛川市の山中にいた。かつて造園業を営んでいた持田勲さん、82才。いや、持田さんの場合、それが商売になっているのだから、道楽とは呼ばないのかもしれない。


倉真くらみ赤石温泉」という立派な名前がついているものの、ここには男湯も女湯もない。あるのは家庭用の浴槽ひとつ。そもそもは自分のために掘った温泉だから仕方がない。
 しかし泉質は抜群!硫黄を含む強アルカリ性の炭酸泉。温度を高くすると炭酸が抜けてしまうため、あえて40度以下に設定されている。このぬるさがたまらなく心地良いのだ。窓の外に広がるのは、何の変哲もない田舎の山の素朴な風景。滝が流れる谷底から吹き上がる風が、汗ばむ頬を撫でる。このまま一生浸かっていたい、と思わせる湯だ。


この小さな湯船ひとつしかない施設で「入浴料1100円は高い」と感じるかもしれない。しかし、ひっきりなしに湯の数寄者たちが訪れているのだから、その価値は想像がつくだろう。心を込めて湯を整え、一人ひとりを丁寧に迎える。持田さんの何気ない話を聞いていると、心まで温まる。これぞまさに「湯道温心」である。


長年通っている常連たちは、この湯のことを人に話したがらないらしい。客が増えると自分が入れなくなるからだ。お叱りを覚悟しながら、それでも「湯道楽」のお手本を世の中に示したく、今回は筆を執らせていただいた。


Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

倉真赤石温泉

  • 〒436-0341 静岡県掛川市倉真5984-1
  • TEL : 0537-28-1126
  • 時間:11:00〜17:00(日帰りのみ)
    定休:年中無休
    料金:1,100円
    ※現在は、新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、
     完全予約制、土日祝のみの営業、静岡県民のみ入浴可能。
     また、食事の提供も休止している。

JR掛川駅からクルマで約30分。山道を進んでいくと、突如ポツンと出現する「倉真赤石温泉」。五色にも変化するという稀有な温泉を求めて、遠方から多数の温泉マニアが集う。家庭のリビングのような休憩場では、源泉を利用した料理も提供されている。「とろろ月見そば」や、名物の「温泉たまご」は必食。身体の内からも健康になれる場所だ。