湯道百選

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栃木・那須温泉

鹿の湯

SHIKANOYU

湯は、おとこを試す。


1390年の歴史を誇る那須温泉の「鹿の湯」は、松尾芭蕉の「奥の細道」にも登場する東の名湯である。ここに、湯道を嗜む者なら避けては通れぬ試練の浴槽がある。

 風情ある玄関の暖簾をくぐり、心躍らせながら浴場へ向かう。数百年の時を巻き戻したような浴場の光景を見たその刹那、弾んでいた心は緊張に変わった。6つある小振りの浴槽はすべて温度が異なる。手前のふたつが41℃と42℃。普通なら適温だが、ここでは最もぬるい。奥へ進むに従い、43℃、44℃と高温になり、奥のふたつは実に46℃と48℃。ここは熱い湯に短く何度も浸かる「単熱浴」の聖地なのだ。


まずはタオルで覆った頭に柄杓で200回かぶり湯!という独自の作法を済ませ、41℃の浴槽に身を沈めると、腹の底から「ふぅぅぅ」という快楽のため息が漏れた。毎日すべて入れ替える硫黄泉に余計な湯の花はなく、とろみがありながらも爽やかさがある。「この湯にずっと浸かっていたい!」と思ったのも束の間、奥の浴槽を取り囲む常連らしき男たちの視線が気になった。「軟弱者め!」と嘲笑されている気分になり、44℃の浴槽に移った。熱いがまだ大丈夫。ならば次は奥の46℃へ。何食わぬ顔をしてゆっくり身体を沈めると、嘲笑していた男たちの顔色が変わった、気がした。誰かが動くだけで痛みを感じる熱さ。しかし、ここまできたら頂点に挑むしかない。鹿の湯の主と思しき長老が凝視する中、意を決して48℃の湯に浸かった。・・・うぅぅぅ、痛い。地獄のように長い時間であったが、おそらく1分にも満たなかったはずだ。それでも大きな拍手が湯気を揺らした、気がした。まさにここは、おとこを試す湯なのだ。



Text by Kundo Koyama
Photographs by Alex Mouton

鹿の湯

  • 〒325-0301 栃木県那須郡那須町湯本181
  • TEL : 0287-76-3098
  • URL : http://www.shikanoyu.jp/
  • 「鹿の湯」の名の由来は、傷ついた鹿がこの湯で傷を癒やしていたことから。1936年建造の建物は、昭和初期にタイムスリップしたかのような気分を味わえる。泉質は硫黄泉で、白濁した湯が特徴。女湯の温度は、最高46℃まで。石鹸やシャンプーは泡立ちにくく、滑る危険もあるので使用禁止である。日帰り湯治のような使い方をする人が多いが、周辺に宿も多くある。

時間:08:00〜18:00
 定休:年中無休(但し、設備改修のため、休日有り)
 料金:大人 500円 小人(小学生)300円 幼児無料
    湯治体験半日券 土日祭日1,500円 / 平日1,200円
    回数券(5枚つづり)2,000円